妊娠 妊娠
2021年09月13日 14:24 更新

【医師監修】辛い吐きづわりはいつまで続く? 乗り切るために知っておきたい原因と対策

妊娠初期には、多くの人が吐き気やおう吐などの消化器症状を中心とした体調不良に悩まされます。「吐きづわり」と呼ばれるこの症状は、いったいいつまで続くのでしょうか。その原因と対策とともに解説します。

吐き気がひどい! 吐きづわりが起こる原因と症状

トイレにしゃがみ込む女性
Lazy dummy

「吐きづわり」と呼ばれるのはどんな症状で、なぜ起こるのでしょうか?

吐きづわりの症状

妊娠中に吐き気やおう吐の症状が続くことを俗に「吐きづわり」と呼びますが、この「吐きづわり」という言葉は医学用語ではなく、定義もはっきりしていません。

「つわり」は、「妊娠初期にみられる悪心(おしん。むかむかすること)・おう吐を中心とした消化器症状」と定義されており、その症状の程度は個人差が大きいものの、妊婦さんの約50~80%に見られるとされています。また、一般的に初めての妊娠ではつわりのあることが多いとされています[*1, 2]。

妊娠中に起こるさまざまな「〇〇つわり」

ただ、一般的に、妊娠初期によくみられる吐き気やおう吐以外の症状を指して「〇〇つわり」と呼ぶこともあります。とめどなく唾液が出るのは「よだれつわり」、強い眠気が続くのは「眠りつわり・寝つわり」、においに敏感になる「においつわり」といった具合です。

「吐き気やおう吐」はもともとつわりのおもな症状ですが、ほかに上記のような別の症状がない場合を指して、「吐きづわり」と呼ぶこともあるようです。

吐きづわりでは、人によって特定のにおいに反応して気持ちが悪くなったり、たとえ無臭の水でも口にした途端、吐き気やおう吐が起こったりもします。症状を起こすきっかけは人によってさまざまで、程度も個人差が大きいです。また、同じ人でも妊娠の度につわりの症状や程度が違うことは少なくありません。

妊娠すると吐きづわりが起こる原因

なお、なぜ妊娠すると吐き気やおう吐が起こり、しばらく続くのか、その原因はまだはっきりとは明らかになっていません。吐きづわりには、妊娠によって起こる、次のような変化が複合的に影響しているのではないかと考えられています。

hCGというホルモンの分泌が増える影響

妊娠すると、「hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)」というホルモンの分泌量が妊娠初期から増加します。このホルモンが脳の「おう吐中枢」を刺激し、「中枢性(ちゅうすうせい)おう吐」を起こすことは、つわりを起こす要因のひとつと考えられています。

hCGは、子宮に着床した「受精卵の絨毛(のちに胎盤へと成長する部分)」から分泌されるホルモンです。妊娠が成立するとかなり早い時期から急激に増えていきますが、妊娠10週ごろをピークにその後はまた急激に分泌量が減り、妊娠中期以降も分泌されますが分娩まであまり量の変化はありません。

このホルモンの分泌量が多い時期には吐き気などの症状がひどくなることが多いことから、吐きづわりに関係しているのではと考えられているのです。

プロゲステロンの消化器への影響

妊娠すると、女性ホルモンのひとつである「プロゲステロン(黄体ホルモン)」の分泌量も増えます。プロゲステロンには、内臓にある「平滑筋」という筋肉をゆるめる働きがあります。その結果、胃や腸といった消化器の機能が低下し、吐き気やおう吐をまねくこともあります。

精神的ストレスの影響

妊娠したことが分かると、妊娠の継続や出産、その後の生活について不安を感じることは少なくありません。また、妊娠によって、仕事や夫婦関係などで心理的な負担が増える場合もあるでしょう。そうした精神的なストレスは、つわりを起こしたり悪化させたりすると言われています[*3]。

その他にも、吐きづわりには、「甲状腺ホルモン」や「エストロゲン(卵胞ホルモン)」などの分泌量変化や、ビタミン類の不足も関係しているのではないかと言われています。

お腹がすくと気持ち悪くなる「食べづわり」

吐き気のある女性のイメージ

最初に解説した「〇〇つわり」には、 「食べづわり」というものもあります。お腹がすくと気持ちが悪くなるため、常に何かを口にしたくなる症状なら、「食べづわり」かもしれません。

太り過ぎに注意が必要なことも

妊娠して食べ物の好みが変わるのもよくあることですが、揚げ物やスナック菓子などカロリーが高い物ばかり食べていると、急激に太ってしまう場合もあります。カロリーが低く、噛みごたえや腹持ちがよいもので症状を紛らわす工夫をしましょう。

吐きづわりと複合タイプも

「食べづわり」と「吐きづわり」が同時にある人もいます。食べなければ気持ちが悪いので、食べると吐き気が起こってしまう辛い症状なら、せめて食べやすくて吐きやすい食べ物の種類・食べ方を工夫してみましょう。

松峯先生
「小粒のラムネや雑穀のビスケットを持ち歩く、吐きやすいゼリーやゼリー飲料を口にするなど、みなさん個々で工夫しておられるようです。症状が少しでも軽減するように、自分なりの工夫でつわりの時期を乗り越えましょう」

「食べづわり」については、こちらの記事で詳しく紹介しています。

吐きづわりと付き合っていくために知っておくべきこと

打合せのイメージ

辛い症状はいつまで続くのでしょうか? なるべく楽に吐きづわりの時期を乗り越えるために知っておきたいことをまとめます。

吐きづわりはいつからいつまで続く?

つわりの時期は個人差が大きく、少し早く始まったり、長引くこともあり、一概に言えません。一般的な目安は次の通りです。

まず、つわりが始まるのは妊娠5〜6週ごろからです。その後、hCGホルモンの分泌が最も盛んな8~10週ごろに症状はピークとなり、12〜16週ごろまでに徐々に治まっていくとされています[*2,4,5]。

仕事内容を調整してもらえるよう相談を

吐きづわりがひどいときは、体調の悪化を防ぐために、勤務先に働き方を相談してみましょう。

その際、主治医に「母健連絡カード(母性健康管理指導事項連絡カード)」を書いてもらうと、症状に応じてどのような通勤緩和や休憩が必要か、会社側(事業主)も判断しやすくなることがあります[*6]。まずは健診などの際、主治医に相談してみましょう。

辛い症状が続くときは入院や点滴が必要なことも

つわりが悪化して治療が必要な状態になることを「妊娠悪阻(にんしんおそ)」と言います。これは、全妊婦の0.5〜2%にみられます[*7]。次のような症状がみられる場合は産科に連絡し、指示をもらいましょう。

・1日に何度も吐く

・食事も水分もとれない

・体重が急激に減った(元の体重の5%以上減)

・尿の量が減っている

松峯先生
「5%の体重減少と言っても、体格によって体が受けるダメージは違うので、そもそも痩せている人の場合は数字だけにこだわらず、臨機応変に主治医に連絡しましょう。
治療が必要な状態になった場合、脱水や栄養状態、体重の回復をめざし1週間程度は入院することになります。点滴を外し、食事や水分で栄養がとれる状態に戻るまで退院できないので、妊婦さんの生活に大きく影響してしまいます。
つわりは病気ではありませんが、軽くは考えず、症状を悪化させない用心が大切ですね」

吐きづわりを乗り切るための対策

水分補給のイメージ

症状を軽減できるよう、1つでもさっそく試してみるとよいことをまとめます。

食べ物は食べられるものを優先して

つわりの時期に十分な食事がとれなくても、赤ちゃんの成長にほとんど影響はありません。つわりのときは「食べられるものを食べられるとき、食べられる分だけ食べる」でOKです。

冷たい食べ物なら食べられることも多い

人によって違いますが、「冷たい食べ物」はにおいが少なく、喉ごしがよいことから比較的食べやすいと感じる人が多いようです。ただ「味が濃いもの」が食べやすいという人もいます。自分にとって食べやすいものを見つけてみましょう。

食べられない場合は飲み物だけでも大丈夫

食事がとれないとき、飲み物ならとれそうだったら、飲み物だけでもとりましょう。脱水予防のためにも水分補給は大切です。

松峯先生
「つわりで食事がとれないときは、糖分やミネラル、ビタミンなどを含むスポーツドリンクや経口補水液など、カフェインレスの自分が飲みやすい味の飲料を探すことをおすすめしています。また、においが気になりにくい冷や汁、好みの果物や野菜のスムージーなどもぜひ試してみましょう」

朝起きてすぐ口に入れられる食べ物を用意しておく

つわりは「朝の空腹時」に現れることが比較的多く、欧米では「モーニングシックネス」とも呼ばれています。

寝起きは空腹で血糖値も下がっているのが一般的なので、朝起きてすぐ何か食べられる準備をしておくと、症状を軽減する助けになります。

食べづわりの場合は空腹の時間を減らす

食べづわりの人や、食べづわりと吐きづわりの混合タイプの人は、空腹の時間を減らすために、少量ずつ口にできる食べ物を持ち歩きましょう。

また、食事も1回量を2、3食に分けてとる「分割食」を試してみるとよいでしょう。

においが気になるときはマスクをつける

妊娠をきっかけに、嗅覚の変化を感じる人は少なくありません。特に妊娠初期に、においの強い飲み物や料理、生ゴミ臭、タバコ臭など特定のにおいに敏感になったり、全体的に嗅覚が鋭くなることがあるようです。

吐き気やおう吐がにおいで誘発されることが多かったら、マスクをつけて過ごしてみましょう。苦手なにおいをチェックしておき、なるべく生活から遠ざける工夫もしてみてください。

適度な運動で気分転換する

つわりの辛い症状が続くようなときこそ、気分転換が大切です。適度な運動は気分転換とリラックスを促すことが分かっています。散歩など軽い運動で効果があるので、時間をつくってみましょう。

ストレスを抱えない環境をつくる

つわりの症状自体が心身に大きなストレスを与えるため、それ以外のストレスをなるべく遠ざけたい時期です。

いまは体調をいちばんに考え、出産や産後の生活、仕事などについての不安は、つわりの症状が治まってから、具体的なサポートを得て、解消していくように考えてみてはどうでしょうか。

そうはいってもどうしても不安で仕方ないようなら、妊婦健診で気持ちを相談してみる方法もあります。ママの体のことや赤ちゃんのことだけでなく、ママのメンタルについても相談でき、必要に応じて、専門的なサポートにつないでもらえます。

松峯先生
「つわりの時期には辛い症状がずっと続くような気がするけれど、『必ず終わります』。 食事がとれないことを心配する気持ちはわかりますが、『そんなに一生懸命たべなくても大丈夫』といった大雑把な気持ちでいるほうが気持ちは楽です。どうかあまり心配し過ぎないでいてください」

まとめ

クーファンとエコー写真
Lazy dummy

「吐きづわり」がなぜ起こるのか、その原因はまだ明らかにはなっておらず、妊娠で変化するホルモン分泌やストレスなど、複合的な要因の影響を受けるようです。症状や程度、期間も個人差が大きく、症状がなるべく軽減されるよう、生活上の工夫を自分でいろいろと試してみて、辛い時期を乗り越えていくことになります。ただ、重症化すると「妊娠悪阻」という病気につながるため、くれぐれも無理はしないでください。症状がひどく、食事や水分を受けつけず体重が減ってしまって心配なときは産科に連絡し、具体的に症状を説明して、指示をもらいましょう。

(文・構成:下平貴子、監修:松峯美貴先生)

※画像はイメージです

参考文献
[*1]日本産科婦人科学会編: 産科婦人科用語集・用語解説集 改訂第4版, p263, 2018
[*2]「NEWエッセンシャル 産科学・産婦人科学 第3版」医歯薬出版株式会社 p301-305
[*3]「周産期看護マニュアル よくわかるリスクサインと病態生理」
[*4]沖縄県:つわりのあるママへ
[*5]「病気がみえるvol.10 産科」(メディックメディア),p86-88
[*6]厚生労働省・一般財団法人女性労働協会「妊娠・出産をサポートする女性にやさしい職場づくりナビ」 「母健連絡カード」(母性健康管理指導事項連絡カード)について
[*7]産婦人科診療ガイドライン ―産科編2020,p108 

※この記事は、マイナビウーマン子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました

※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます

  • 本記事は公開時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

PICK UP -PR-

関連記事 RELATED ARTICLE

新着記事 LATEST ARTICLE

PICK UP -PR-