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2021年01月28日 17:36 更新

【医師監修】トキソプラズマ症とは? 妊娠中に感染したときの症状とリスク

「トキソプラズマ症」という言葉を聞いたことはありませんか? トキソプラズマ原虫の感染によっておこる感染症ですが、妊婦が初めて感染するとおなかの赤ちゃんに悪影響を与えることもある病気です。妊娠中の人や、妊娠を考えている人はしっかり予防に努めたいもの。今回はトキソプラズマ症の症状や予防法について解説します。

トキソプラズマ症とは

リスクを注意したいトキソプラズマの検査薬
Lazy dummy

※画像はイメージです

トキソプラズマ症は、単細胞の原虫「トキソプラズマ」に感染することによって起こります。その感染経路や症状とはどんなものでしょうか?

トキソプラズマ症とは?

「トキソプラズマ(Toxoplasma gondii)」は、世界中でみられる原虫です。大きさは幅3μm(マイクロメートル)、長さ5-7μmで、形は、半円~三日月形をしています。ネコ科動物を終宿主とする寄生性単細胞生物です。

感染するのは、人を含む多くの哺乳類や鳥類。人の感染率は、国・地域・年齢・食生活・衛生状態などによって異なります。フランスでは約85%が感染しているといわれていますが、これはフランスでは生の肉や加熱が不十分な肉を食べる習慣が多いことと関係していると考えられます。一方、日本では、妊婦の10%前後がトキソプラズマの抗体を持っていたという報告があります。

トキソプラズマに感染する人は少なくありませんが、症状が現れるのはごくわずか。多くが感染していても、免疫の力で、発症しないようにトキソプラズマを抑え込んでいるためです。

トキソプラズマの感染経路

トキソプラズマは、人を含む哺乳類・鳥類の場合、主に口から感染し消化管から体内に侵入します。

口からの感染は、トキソプラズマに感染した肉を食べてしまうことなどから始まります。トキソプラズマは細胞内で増え続け、頑丈な壁を持つ「シスト」と呼ばれる状態になり、その壁に守られて生存し増殖していきます。その「シスト」がある肉などを、ほかの動物が食べると、さらにその動物の体内で感染し広がっていきます。人における感染では、加熱が不十分な肉や殺菌されていない牛乳・それにより作られたチーズなどを口にすることが原因のひとつとされています。

もうひとつの考えられる感染源は「ネコ」です。ネコ科の動物では、トキソプラズマは腸管上皮において増殖しやすく、「オーシスト」と呼ばれる球形の状態になり糞(ふん)の中に出ます。糞の中に含まれたオーシストが、何らかの形で人間の口に入ると感染してしまいます。
トキソプラズマは経口感染を起こすと考えられていて、空気感染、経皮感染はしません。ただし、まぶたの結膜からも感染することがわかっています。

トキソプラズマ症の症状

感染したとしても、免疫システムが正常に働いている人の場合、多くは無症状です。症状が出たとしても、リンパ節の腫れ、微熱、はっきりしない体調の悪さなど、一過性の症状で、そのうち自然に治ります。

ただし、小さな子供や免疫機能が低下している人では、重篤な症状が出ることがあります。その症状は感染部位によって異なり、例えば脳のトキソプラズマ症(脳炎)になると、意識障害、けいれん、視力障害などが起こります。そのほか、肺炎や網膜炎などがあらわれることもあります。

妊娠中に感染したらどうなる? 症状とリスク

免疫が正常に機能している場合の多くは無症状ですが、おなかに赤ちゃんがいる妊婦さんの場合は話が別です。妊娠中に初めてトキソプラズマ症に感染すると、流産や死産につながることがあるほか、赤ちゃんが病気を持って生まれることもあります。

妊娠中に初感染した場合のリスク

妊娠中の女性がトキソプラズマに初めて感染した場合、トキソプラズマが胎盤を介して胎児に感染することがあります。これを「先天性トキソプラズマ症」と呼びます。妊娠中にトキソプラズマに初感染したからといって、必ずおなかの赤ちゃんにも感染するというわけではありませんが、注意は必要です。

胎内感染がおこった場合、重症になる可能性は妊娠初期ほど高いとされています。ただし、妊娠初期では妊婦さんから胎児に感染する確率はそれほど高くありません。一方で妊娠後期になるほど妊婦さんから胎児に感染する確率は上がるものの、たとえ感染しても赤ちゃんの重症度は低いと言われています。

先天性トキソプラズマ症の症状

生まれる前に母親からトキソプラズマに感染する「先天性トキソプラズマ症」の症状はさまざまです。症状があらわれないケースから、重い症状があらわれるケースまであり、重い症状としては、脳の異常、視力障害、精神運動機能障害などがあります。また、生まれてすぐは症状があらわれない場合でも、眼の病気などが後から発症するリスクがあるといわれています。

感染した場合の対処法

妊娠中に初めて感染したことが強く疑われる場合は、まず妊婦さんから胎児への感染を予防する抗菌薬(抗生物質)が投与されます。また、羊水検査によって胎児にも感染していることが確認された場合は、抗原虫薬や抗菌薬、葉酸による治療が行われます。

トキソプラズマ症を予防するには? 妊娠前・妊娠中の注意点

妊娠中に感染すると、おなかの赤ちゃんに悪影響が及ぶことがあるトキソプラズマ症。感染を予防するにはどうしたらいいのでしょうか。予防方法や感染しているか確認できる血液検査について紹介します。

妊娠前に血液検査を受けよう

妊娠前にトキソプラズマに一度感染していれば、体の中に抗体ができているので、おなかの赤ちゃんへの感染を心配する必要はありません。妊娠から6ヶ月以上前までに感染していれば、胎児への影響はないと考えられています。

では、実際に自分がトキソプラズマに対しての免疫を持っているか知りたい場合はどうしたらいいのでしょうか。

妊娠中や妊娠を望んでいる人は、トキソプラズマに対する抗体があるかどうかをチェックする血液検査を受けましょう。標準的な妊婦健診の検査項目には入っていませんが、希望すれば多くの医療機関でトキソプラズマ抗体の有無を検査できます。費用は1,000~2,000円程度ですが、市区町村によっては、公費助成を受けられるところもあります。

食事・調理の注意点

まず、一番重要なことは、「肉を食べるときは、よく加熱したもの以外は絶対に食べない」ということ。生肉や加熱が不十分な肉には、生きたトキソプラズマが含まれていたり、付着している可能性があります。

トキソプラズマを含む可能性がある肉料理は「ローストビーフ」「ユッケ」「牛肉のたたき」「馬刺し」「鳥刺し」など。ステーキもレアやミディアムの場合はトキソプラズマが死滅していない可能性があるため、中心部の赤みがなくなるまでしっかり火を通しましょう。「生ハム」は加工品なので大丈夫では?と思う人もいるかもしれませんが、加熱されていないためNGです。

トキソプラズマは低温や乾燥にも強い原虫です。中心部が「-12℃になるまで冷凍庫で数日間冷凍する」「中心部が67℃になるまで加熱する」ことが感染予防になりますが、家庭用冷蔵庫の中には中心部が−12℃にならないものも多いため、しっかり加熱することが確実な方法と言えるでしょう。

また、包丁やまな板などの調理器具の洗浄も大切です。包丁やまな板などは、生肉用と野菜用に分け、使い終わったらしっかり洗浄し、清潔を心がけましょう。土に触れていた野菜や果物類はしっかり洗い、皮はむいて食べるようにします。

ガーデニングなど土を触る際の注意点

トキソプラズマの終宿主である猫の糞の中には、トキソプラズマのオーシストが入っているものがあります。オーシストは糞を介して土壌などに入り、その中で数ヶ月以上生存し、一般的な消毒薬では死滅しません。そのため、畑や花壇などの土に素手で触れた場合、そこから口に入り感染してしまう可能性があります。

ガーデニングや野菜作りが趣味の人も、妊娠中はできるだけ土に触れるのを避けたほうがいいでしょう。どうしても行いたい場合は、手袋をはめ、作業が終わったあとは石けんと水でしっかりと手を洗ってください。

また、猫は公園の砂場などにもよく糞をします。妊娠中に上の子供を連れて砂遊びをする人もいるかもしれませんが、しっかり対策に努めましょう。

猫を飼っている場合の注意点

家の中で猫を飼っている場合は、どのように対処したらいいのでしょうか?「うちは完全に室内で飼育しているから感染していない」と考える人もいるのですが、完全室内飼育の猫でも、トキソプラズマに感染する可能性があり、注意が必要です。

オーシストは、感染力を持つようになるまで、最低でも24時間が必要と考えられています。感染力を持つ前に猫の糞は処分し、猫のトイレは毎日掃除をして清潔を保つように心がけます。猫のトイレ掃除は、できるだけ妊婦以外の人が行うのが望ましいでしょう。どうしてもトイレ掃除をしなくてはならない場合、使い捨て手袋やメガネを装着し、作業後は手洗いを徹底します。

猫は主に屋外でトキソプラズマに感染するため、屋外に出すのは避けてください。猫への感染を防ぐためにも、生肉を与えるのはやめましょう。

また、妊娠中に新たに猫を飼い始めるのも要注意。猫がトキソプラズマに感染しているかわからないため、感染してしまう可能性があります。

まとめ

妊娠中に初感染すると、おなかの赤ちゃんに悪影響が及ぶ可能性があるトキソプラズマ症。だからといって、必要以上に肉料理に神経質になったり、猫に触れることを怖がっていては、それがストレスになってしまいそうですよね。正しい知識を身に付けて予防に努めることが何よりも大切。気になる人は、早めにトキソプラズマ抗体の検査を受けるようにしましょう。

※この記事は 医療校閲・医師の再監修を経た上で、マイナビ子育て編集部が加筆・修正し掲載しました(2018.08.27)

※記事の修正を行いました(2019.06.12)

  • 本記事は公開時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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