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2021年07月07日 17:43 更新

【医師監修】産後に胃痛を引き起こす原因と疑われる病気とは

子育てで忙しい日々、胃が痛くなっても我慢しているママもいるのではないでしょうか? 胃痛の原因はさまざま考えられますが、見過ごせない病気で受診が必要な場合もあります。そこで今回は、産後に胃痛が起こる原因と受診の目安などをまとめました。

出産に関連する胃痛の可能性

新生児を抱く母

産後のママは、ホルモンバランスや生活のリズムなどいろいろな面で大きく変化します。それらが原因となって、胃痛が起こることがあります。

ライフスタイルの変化によるストレス性胃痛

胃痛はさまざまなことでおこりますが、産後の女性が訴える胃痛の背景によくあるのが、「ストレス」です。出産後のママは、生活のリズムやスタイルがそれまでとは激変しますね。家事に赤ちゃんのお世話にと大忙しなうえ、夜中の授乳などで睡眠不足にもなりがちです。

育児に対する不安やプレッシャーもあるでしょう。自分では気づかなくても、そうしたことがストレスとなっているかもしれません。さらに、出産直後のママの体は、プロゲステロンという女性ホルモンの一種が激減していることによって、もともと自律神経活動が不安定になりやすいのです。

胃の働きには自律神経が大きくかかわっていて、ストレスがあると自律神経のバランスが崩れてしまいます。その結果、胃の血流が下がって胃の壁を守る粘液の分泌が減少し、胃粘膜の抵抗力が弱まります。一方で、胃粘膜を刺激する胃酸の分泌量は増えます。この二つが合わさることで胃に炎症が起こって、胃痛を引き起こすのですね。

産後うつ病に関連して胃痛や下痢、吐き気が出ることも

産後のうつが原因で、症状の一つとして胃痛が起こることもあります。もともと女性は男性に比べてうつになりやすく、女性の約12人に1人[*1]がうつ病を経験すると言われています 。

妊娠中や産後は特にうつ病が起こりやすいのですが、それは女性ホルモンが激変することで、ストレスに対する脳の抵抗力が低下することが一因としてあります。産後は特にいろいろなことがストレスになりやすいので、脳がそれを処理できなくなり、機能不全を起こしてしまうのです。

うつ病になると、何でも悪くとらえるようになりやすいといったこころの症状が現れるほか、体の症状として胃痛が起こることがあります。胃痛以外にも、うつが原因で胃の不快感や吐き気、下痢や便秘といった消化器症状が起こることもあります。

なお、「産後うつ」について詳しくは、以下の記事も参考にしてくださいね。
【医師監修】10人に1人は産後うつ病に! 症状・兆候のチェックリストで早めに対策を

出産と関連のある胃痛を起こす病気

産後に「胃が痛い」と受診する人の中には、見逃してはいけない病気が原因となっているケースがあります。それは妊娠高血圧症候群です。

妊娠高血圧症候群は妊娠中(妊娠20週以降)および産後(分娩後12週まで)に血圧が上がることが問題とされていますが、同時に肝臓に障害を起こすことがあります。肝臓はお腹の上の方、胃の右側にあるので「胃が痛い」と感じることがよくあるのです。

妊娠高血圧症候群をそのままにしてしまうと、脳出血や血液凝固異常(DIC)、肺水腫、臓器障害などを起こすことがあり、放置してはいけない病気です。胃のあたりが痛い、血圧が上昇している、頭痛がしている、むくみがひどくなっているなどがあれば、妊娠高血圧症候群が強く疑われます。いくつかの症状が当てはまる場合は、すぐに受診しましょう。

出産と関連性のない病気のサインかも

お腹をおさえる女性

産後の胃痛や不快感が、出産とは関係ない原因で起こっていることも考えられます。また、胃の痛みだと思っていたのが、じつはその周辺の痛みだったというケースも。痛む場所や痛み方などによっては、早めの受診が必要な病気の可能性もあることを知っておきましょう。

重大な病気の可能性があることを忘れずに

症状として胃痛が現れやすい病気としては、以下のようなものがあります。

胃潰瘍、十二指腸潰瘍

胃や十二指腸の粘膜に炎症を起こしたり、粘液の分泌量が減ったりすることで粘膜表面の抵抗力が弱くなり、粘膜が酸によって傷ついて潰瘍ができた状態。原因はピロリ菌や薬の副作用、ストレスなどさまざまです。潰瘍のある部位によって症状が異なり、空腹時に痛みが強くなって食事をとることで弱まることが多いですが、食後に痛みを感じるケースもあります。

逆流性食道炎

食後2~3時間くらいのうちに、胸やけがしたり酸っぱい液体が上がってきたり、のどに違和感を感じたりします。この病気は、食道と胃の境目の噴門(ふんもん)によって逆流が防がれているはずの胃酸が、食道へ流れ込むことで起こります。発症リスクとしては、暴飲暴食や脂肪分の多い食事、不規則な食生活などが挙げられます。

機能性ディスペプシア

胃痛や胃もたれが続くものの、検査をしてもはっきりと原因となる異常が見つからない胃の病気のこと。胃・十二指腸の動きの低下や知覚過敏、ストレス、胃酸などさまざまな要因が組み合わさることで起こるのではないかと考えられています。

急性膵炎

膵臓の炎症で、おもに飲酒と胆石が原因です。症状はおなかの上の方の痛みが多いですが、背中まで痛くなったりするほか、嘔吐することもあります。

痛む部位によっては別の病気の可能性も

いわゆる胃の痛みではなく、おなかやその周囲が痛む場合には以下のような病気も考えられます。痛みが続くときは我慢せず、早めに医療機関を受診しましょう。

「子宮復古不全」や「子宮内膜炎」といった産後の病気

子宮にかかわる産後の病気の場合には、症状の一つとして下腹部が痛くなることがあります。

妊娠でふくらんだ子宮はたいてい産後6~8週くらいで元の大きさに戻るのですが、回復が遅れている状態を「子宮復古不全」と言います。この場合は、赤い悪露が出続けたり熱が出たりするほか、下腹部痛が起こります。

また、分娩によって子宮が細菌に感染し、「子宮内膜炎」「子宮筋層炎」「子宮傍結合組織炎」などが起こったときにも、症状として骨盤痛や発熱のほか、下腹部痛が起こることがあります。産後10日以内に38度以上の高熱が2日以上続き、下腹部や骨盤の痛みがある場合は、子宮の感染症の可能性があります。

腰から脇にかけて痛みが生じる「腎う腎炎」

「腎う腎炎」は、症状として排尿時の痛みや頻尿、38度以上の発熱のほか、背中や腰の痛みが起こります。細菌の進入経路は、最も多いのが尿の出口から尿の通り道を遡って腎臓にまで広がってしまう場合です。まれに血管を通って感染することもあります。

産後は膀胱炎や腎う腎炎にかかりやすいとされます。

お産のときには、生まれてくる赤ちゃんの頭で膀胱が圧迫されますが、その圧迫が強いと、産後一時的に膀胱の筋肉がゆるみ、収縮しにくくなります。そのため、おしっこが出にくくなり、膀胱におしっこがたまったままになりやすい状態になります。すると、外から細菌が入ってきても尿と一緒に排出できないので、感染しやすくなるのです。

さらに、産後は悪露のために外陰部が汚れやすいことも、リスクを高める一因となっています。

こんな胃痛・腹痛が起きたら早急に受診を

吐き気のある女性

胃痛対策としてストレスの原因の解決を図ったり、リラックスできる時間を持つなどすることで、ある程度は症状が改善する可能性はあります。しかし、それだけではよくならないケースも少なくないでしょう。

胃痛や胃のむかつきが続いたり、以下のような症状が見られるときは、早めに医療機関を受診しましょう。
・胃が激しく痛む
・胃から背中に抜けるような痛みがある
・時間とともに痛みがひどくなる
・熱や吐き気など胃痛以外の症状がある

授乳中でも胃薬の服用はできる

服薬のイメージ

軽い胃痛なら、市販の胃薬を飲んで様子を見ようと思うかもしれませんが、母乳を飲ませていると赤ちゃんへの影響が気になりますね。

大前提として言えるのは、多くのお薬は母乳中に出てくる量は非常に少なく、赤ちゃんに影響する可能性は低いということです。実際には、授乳中に使える市販の胃薬も多く、また短期的に使った程度で赤ちゃんに影響が及ぶことはほとんどありません。

市販の胃薬を服用する場合は、まず薬の説明書を確認することが大切です。製薬会社の公式サイトなども参考になりますね。授乳中に服用しないようされている薬もあれば、授乳中でも服用して問題ないとしている薬もあります。

よくわからなければ、かかりつけ医に相談し、授乳中でも飲める胃薬を処方してもらうと安心ですね。

授乳中の服薬の赤ちゃんへの影響について、国立成育医療研究センターでは、多くの薬は母乳に移行するが、微量のため赤ちゃんへの影響は低く、「お薬を飲んでいるお母さんは必ずしも母乳をあげることをあきらめなくてはいけないわけではないですし、母乳をあげるために必ずしもお薬をやめる必要はありません」としています。

同センターのWebサイトでは、安全に使用できると考えられる薬の成分や製品名の一覧も公開されていますので、薬を使用したいときの参考にするとよいでしょう。
国立成育医療研究センター「授乳中にお薬を使うにあたって知っておいていただきたいこと」

まとめ

産後は、生活が大きく変わることでストレスとなり、胃痛が起こることは珍しくありません。ただ、ストレス以外でも胃痛が起こる病気もいろいろ考えられます。ママが元気で育児をするためにも、「ただの胃痛」とあなどらず、痛みが続く場合は早めに受診しましょう。原因を確かめて、必要なら早めに治療を開始することが大切です。

(文:村田弥生/監修:太田寛 先生)

※画像はイメージです

※この記事は、マイナビウーマン子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました

※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます

  • 本記事は公開時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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