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2018年12月04日 14:39 更新

百人一首をすぐ覚えてしまった!? 江戸時代の読み聞かせ論

歴史エッセイストの堀江宏樹さんが、江戸時代の子育てについてお届けする第4弾。今回は読み聞かせについてです。

Lazy dummy

読み聞かせの大切さ

今から200年ほど前の江戸時代後期、現在の新潟県の一部にあたる桑名藩の下級武士・渡辺家の子供たちには詳細な成長記録が残されています。柏崎で暮らしていた渡辺家には「おろく」という女の子がいました。彼女には7歳にして「百人一首」をすぐに覚えてしまったという、おどろくべき記録があります(『柏崎日記』)。

ちなみに現代日本なら「百人一首」は小学校高学年~中学校の教材として使われていてもおかしくはないものです。当時ではとくに賢い子だった、という扱いでもないおろくに、どうしてそんなことができたのでしょうか?

満八歳のおろくが当時の言語感覚からしても、文法も違えば、古い日本語あつかいの言葉で書かれた「百人一首」をサラッと覚えてしまえたのは、幼いころから、いわば絵本の読み聞かせを大人たちから、しかも上手にしてもらっていたからのようです。また、おそらく「百人一首」に、周囲の大人や年長者が楽しそうに親しんでいる姿を知っていたから、という事情もあるでしょう。

現代でも、読み聞かせの大切さはよく耳にしますよね。ところが幼い子に絵本を読んであげようとしても、お話どころか、絵にすら集中してくれない!という悩みをもつ現代日本のママ・パパは多いと思います。

しかし江戸時代の「読み聞かせ」を勧める教育論でも、そういった事情はいわば、想定内。絵本の内容を最初から説明し、理解させようとはしなくてよいというのが大前提なんですね。たとえば戦国時代のエピソードをまとめた書物『常山紀談』で、今日でも歴史ファンの間で有名な江戸時代の儒学者・湯浅常山によると、幼い子供には当時の動物図鑑にあたるような、絵の書いてある本を渡すところからはじめ、ついで片方のページに絵、その横に説明の文字のついている本に慣れさせるようにしなさいとのことです(『文会雑記』)。

要するにストーリーに幼い子供が反応しなくて当然、絵の説明を文字がしているとわからせられたら十分という感じです(ちなみに湯浅常山は、子供が8~9歳になるまで漢字を覚えられなくても大丈夫と言ってくれているので、ご参考まで)

子供が反応する絵のある本を選ぶのもコツのようですね。親がその本の内容に興味を示していることや、面白いと感じていることが、子供に伝わることも重視されました。
とくに当時は、親は子供の最初の師匠という考えがありました。また、何を具体的に教えたかが重要というより、親とすごした楽しい時間の記憶を幼心に刻ませよう……という配慮もあると思います。

子供の自主性を育てることが重要


江戸時代の幼児教育では、子供の自発性を育てることがとにかく重視されました。親や年長の周囲の子供たちが喜んで習っていることを自分も真似したい!……幼いうちにそう思わせられるようになったら、それだけでまずは成功なのです。人の言葉に耳を傾けて聞く習慣がついているかどうか、でしょうね。それができる子供は、その後、学校に行っても授業についていきやすいといわれているのを筆者は思い出しました。現代日本の家庭でも、親子で本を読む時間そのものを、楽しめるようになるのが今後のための第一歩なのかもしれません。

  • 本記事は公開時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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