【医師監修】妊婦が出べそになるのはなぜ? 産後は治る? 病気の可能性も?
妊娠中、お腹が大きくなってくると「おへそが出て、出べそになった!」と驚く人もいます。妊婦さんが出べそになるのは珍しいことではないようですが、なぜそうなるのでしょうか。その理由や、産後治るのかなどについて解説します。
妊婦は出べそになりやすい
そもそも出べそとはどのような状態のことを言うのでしょう。また、妊婦さんはなぜ出べそになりやすいのでしょうか。
出べそってどういう状態?
「出たへそ=出べそ」という呼び方は俗称で、医学的には「臍突出症(さいとっしゅつしょう)」と言います。「臍(さい)」とは「へそ」のことで、それが突き出ることから臍突出症と呼ばれています。
出べその多くは生まれてまもなく、「臍帯(さいたい。へその緒のこと)」が切断され、へそが形作られる時、つまり子供のころに生じます。生まれてすぐの赤ちゃんは、ママと臍帯でつながった状態にありますが、生まれてからは臍帯から栄養などをもらう必要がなくなるため、これは切断されます。
すると、切られた臍帯の痕にできる 「臍輪(さいりん)」と呼ばれる部分が縮んで凹み、いわゆる「へそ」の状態になります。しかし、本来は凹んでいるはずのへその部分が、なんらかの原因で飛び出てしまうことがたまにあります。それが、すなわち出べそと呼ばれる状態です。
妊娠中は腹圧で出べそになりやすい
大人になってから、妊娠や肥満、腹水などの影響で腹圧(腹腔内圧)が上昇することにより、出べそになる人もいます。
「臍突出症」と「臍ヘルニア」の違い
出べそに見えるものには臍突出症のほかに、「臍ヘルニア」という状態もあります。臍突出症はへその緒の付け根の傷痕が盛り上がっている状態ですが、臍ヘルニアはへその緒の付け根に穴(ヘルニア門)が開いていて、お腹から腸などが押し上げられている状態です。
なお、日本における20歳以上の臍ヘルニアの手術件数は、女性のほうが男性よりも1.4倍多いとも言われています [*2]。
大人の臍ヘルニアは基本的に手術で治療する
妊娠によって生じた出べそは、基本的に産後、腹圧が元に戻ると自然と治るようです。しかし、中には治らないケースもあります。出べそが臍突出症によるものであればほとんど心配はいりませんが、臍ヘルニアによる出べそには少し注意が必要です。
臍ヘルニアの場合、放置していると臍のふくらみが大きくなって、痛みや吐き気などの症状を伴うようになることがあります。また、臍ヘルニアで飛び出た臓器が元に戻らなくなる「嵌頓(かんとん)」という状態になると緊急手術が必要になるケースもあり、大人では子供より嵌頓になりやすいとも言われています。
なお、子供の臍ヘルニアは、1歳前後でその9割以上が自然に凹んで、正常な状態になるものの、大人になってから生じた場合は、腹圧が元に戻っても改善しないケースがあるといわれています [*2]。
嵌頓のリスクがあるので、自然に治らない臍ヘルニアは、手術によって治療することになります。
腹直筋離開による出べその可能性も
産後、出べそがなかなか治らないという場合、臍突出症や臍ヘルニアのほかに「腹直筋離開」が原因となっている可能性もあります。
腹直筋離開とは
「腹直筋」とは体幹部を支える腹筋のひとつです。体を前に曲げる際に働く筋肉で、左右の腹直筋は白線と呼ばれる組織でつながっています。この白線がさまざまな理由により弱くなると、腹直筋が左右に拡がる「腹直筋離開」となることがあります。
妊娠・出産は腹直筋離開が生じる主な原因のひとつで、アメリカの論文では妊娠後期では66%の女性に見られ、そのうち30~60%は産後も腹直筋が離開したままになっていると報告しているものもあります[*3]。
このように腹直筋離開は妊娠中や出産後の女性には珍しくないものですが、これによって出べそになることもあります。
腹直筋離開による出べその治し方
とはいえ、腹直筋離開であったとしても、必ずしも治療の必要はありません。欧米では妊娠出産による腹直筋離開はよく知られていて、おもに美容的な理由から外科手術を希望する人も多いようですが、臍ヘルニアとは異なり腹直筋離開によって見た目以外の問題が起こることはあまりないので、日本では手術で治療することは少ないようです。
いわゆる「腹筋」はNG
なお、腹直筋離開やそれに伴う出べそを治したいと思っても、妊娠中にいわゆる「腹筋」運動のように「腹直筋」を鍛えるエクササイズを行うのはNGです。腹直筋を鍛える運動は腹圧を上昇させ、かえって腹直筋離開を引き起こす原因にもなります。
気になるなら「腹筋」ではなく体幹周りのストレッチを
ただ、妊娠中でも、「腹横筋」や「腹斜筋」といったインナーマッスルをストレッチや体操でほぐし、柔軟性を高めることはできます。
腹横筋は背中側から腹部をコルセットのように支える筋肉で、この筋肉をほぐすと腹直筋離開の予防や改善に役立つだけでなく、腰回りを安定させるのも助けると言われています。また、腹横筋は、呼吸をする時に使われる筋肉で、腹式呼吸で息を大きく吸ったり吐いたりすることで刺激することもできます 。
妊娠中にもできる体幹周りのストレッチ・体操については、下記の記事を参照してください。
産後に試すなら「産褥体操」から
また、産後に出べそが気になりだした人も出産直後に激しい運動をするのはNGです。産後1、2ヶ月ごろを産褥期と呼びますが、このころに適した運動に「産褥体操」というものがあります。お腹や腰回りの動きもあるので、無理のない範囲で試してみましょう。
妊娠中・産後の出べそへの対処法
妊娠中や産後に出べそになってしまったとき、とるべき対処の目安を紹介します。
病気やトラブルが疑われる場合は受診
「出べそで医療機関を受診?」と思うかも知れませんが、へそのふくらみが大きくなり、痛みや吐き気、違和感などを伴う場合は臍ヘルニアの疑いがあり、医療機関での診察や処置が必要な可能性もあります 。
恥ずかしがったり、我慢したりせず、医療機関を受診しましょう。まずは、かかりつけの産婦人科医に相談してみてください。
臍ヘルニア以外は特に治療の必要はなし
臍突出症や腹直筋離開による出べその場合、体の機能に大きな影響があるわけではないため、基本的には医療機関での治療は必要ないとされています。妊娠中や産後にもできるストレッチや体操で対策してみましょう。
ただ、産後におへその形がどうしても気になる場合は、状態によっては形成手術などで形を整えることが可能なこともあるので、医療機関で相談してみても良いでしょう。
出べそだけならあまり気にし過ぎないことも大切
ここまでで説明した通り、妊娠出産時期は大きくなった子宮による腹圧の上昇や腹直筋離開などにより、どうしても出べそになりやすい状態にあります。
時が経つにつれて自然に元に戻る可能性もあるので、妊娠中や産後に出べそになっても、他に症状がないのであればあまり気にしすぎないのも大切です。
なお、出べそとともに「おへそのゴマ」が気になる場合はどうすれば良いのでしょうか。
妊娠中、「出べそ」になってゴマが出てくる人がいます。律儀に残しておく人もいるのですが、オリーブオイルなどでやわらかくして取れそうであれば、取っても問題ありません
まとめ
妊娠中は腹圧の上昇などにより、出べそになりやすい時期といえます。妊娠による出べそは一時的なものである可能性があるため、腫れや痛みなどがなければ、そのまま産後まで様子を見るのがよいでしょう。産後、どうしてもおへその形が気になる場合は、形成手術が可能かどうか医療機関に相談する方法もあります。とはいえ症状が出べそだけなのであれば、健康に害があるわけではありません。臍ヘルニアによる症状には注意しながら、あまり気にしすぎないことも大切です。
(文:山本尚恵/監修:直林奈月先生)
※画像はイメージです
[*1]日本形成外科学会「臍突出症・臍ヘルニア」
[*2]聖路加国際病院 ヘルニアセンター
[*3]「腹腔鏡下修復術を行った妊娠出産後腹直筋離開の2例」日臨外会誌 77( 3 ),2016,p659
※この記事は、マイナビウーマン子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました
※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます