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2021年03月22日 20:00 更新

親はいい加減なくらいでちょうどいい『麹町中校長が教える 子どもが生きる力をつけるために親ができること』Vol.3

「子育ての本当の目的」って、なんだろう? 革新的な教育で注目を集めた、元・千代田区立麹町中学校校長で横浜創英中学・高等学校校長の工藤勇一先生の著書『麹町中校長が教える 子どもが生きる力をつけるために親ができること』(かんき出版)から、家庭でも実践できる子育ての心構えをご紹介します。

親がだめな部分をさらけだせば、子どもは安心し、信頼してくれる

Lazy dummy

職業柄、「子育てではどんなことを大切にしてきましたか?」と聞かれることがよくあります。
期待を裏切るようで申し訳ないのですが、私は父親として大事にしてきたことはほとんどないと言っていいです。

その大きな理由の一つは、家では教師としての私ではなく、ありのままの自分でいることを妻も息子たちも許してくれたからです。
とくに長男は親子というより相棒というような存在で、数多くの思い出があります。
お風呂に入りながら「2人で母さんを守ろうな」と話したこと、2人で動物園に行ったこと、家庭用カメラで特撮物の撮影の真似事をしたこと。そして4歳下の次男が生まれることを一緒に心待ちにしたこと。
父親としての振る舞いをほとんどしなくてもよかったのは、長男のおかげだと思っています。

同時に私は意図的に、バカな父親の部分も見せるようにしていました。
テレビに志村けんが出てきてスイカの早食いをすれば、家族みんなで真似をしたものです。スイカをぐちゃぐちゃにまき散らしながら、早食いをするあれです。
口の周りもテーブルも床も汚くなりましたが、そんなことは一切お構いなしです。

おもしろいことを一緒にやり、家族で笑いあえる時間は、子どもたちにとって何より大切な時間だと考えていました。
真面目な話はほとんどせず、だめな自分をさらけ出すこと。
そうすることで子どもたちは安心し、親を信頼します
ダメ父親の言い訳をすれば、家庭内に心的に安全な環境をつくり上げていたとも言えるでしょう。

固定化された価値観から子どもを解き放ち、視野を広げることが大人の役目

Lazy dummy

もう一つ、いい加減な親を公言することで、もし子どもが何かに悩んだとしても、「もっと気楽でいいんだ」ということが伝わるのではないかとも考えていました。

人はどうしても「こうでなければならない」という価値観にはまる生き物です。
子どもは成長の段階で必ずそれを意識します。
しかし「お父さんはあんなにいい加減なんだから、自分もそんなに深く考えなくていいか」と、子どもの心を軽くすることができるかもしれないと思ったのです。

子どもたちは、さまざまな悩みを抱えて日々を生きています。
そのときに固定化された価値観から子どもを解き放ち、視野を広げることが大人の役目です。

Lazy dummy

たとえば、思春期の子どもたちはただでさえ自分の細かなところが気になります。さらに発達に特性があった場合には、自分がだめな人間なのではないかと気にする場合が多いです。
以前、発達障害の診断がおりた子どもと話したときに、こんなことがありました。
その子の親御さんは「この子は、発達に特性があって、コミュニケーション能力に課題があるんです」と言っていました。
しかし、その子は私とはよく話していたので、次のように伝えました。

「君は自分にはコミュニケーション能力がないと思ってるの? そんなことないよ。僕とこんなに話せるじゃない。きっと同級生と話しづらいだけじゃないの? あのね、あとで振り返ればわかると思うけど、こんなに同世代の人間がずっと一緒にいる学校っていうのは、ある意味特殊な時期なんだよ。もしかして息苦しいのかな? でもあと数年で終わりだよ。大学に行ったら同級生とも急に距離感が出るし、働き始めたら周りに同世代なんてほとんどいないんだから。全然、へっちゃらだよ」

その子はびっくりしていましたが、心なしか顔つきが和らいだように思えました。

大抵の場合、コミュニケーション能力がないと言われる子どもは、同世代の子とのコミュニケーションが苦手ということが多いのです。
大人とはやたらとしゃべったり、小さい子の面倒はよく見てくれたりします。
この子に伝えた通り、年齢を重ねていくにつれて、問題となる環境から離れられることがほとんどです。

どう生きるかは子どもが決めること

Lazy dummy

親御さんは自分の子どもが心配なあまり、子どもが傷つかないようにさまざまな場所でこのような説明をします。「この子は、コミュニケーション能力が低いので」。
しかしそうすると、子どもにどんどんその言葉が刷り込まれていき、自分はコミュニケーション能力が低いんだと認識するようになります。
子どもは、大人が気にすることを気にします
ですから、親御さんは過度に気にせず、できれば子どもたちの視野を広げるような言葉をかけてあげるほうがいいのではないでしょうか。

私は息子たちに求められれば意見をしたこともありますが、最後には必ず「でも、それが正しいかどうかはわからないよ」と締めくくっていました。
どう生きるかは子どもが決めることです
自分の意見や通った道は必ずしも正しいものではないと、親自身が認識していくことは、子どもが生きていくうえでとても大切です。

まとめ

親が通った道が、正しいわけじゃない

次回の内容は……?

「子どもの問題は、大人が勝手につくっている」についてお届けします。

書籍『麹町中校長が教える 子どもが生きる力をつけるために親ができること』について

麹町中校長が教える 子どもが生きる力をつけるために親ができること
¥ 1,540 (2021/03/22時点)
(2021/03/05 時点)

宿題、定期テスト廃止。固定担任制も撤廃。服装・頭髪検査はおこなわない。公立中学校とは思えない数々の学校改革で注目を集める元・千代田区立麹町中学校校長・工藤勇一先生(現・横浜創英中学・高等学校校長)が、子育ての「当たり前」について考えてみたのが本書です。

多くの親御さんは、日々、さまざまなことに悩みながらお子さんと向き合っていることでしょう。
でも、きっと大丈夫。一番大事なことは何かを考えたら、そんなに気にすることじゃないかもしれません。

本書には、麹町中でなくても実践できる、子育ての心構えが詰め込まれています。
不安を抱えて育児に奮闘する皆さんの心を、ふわっと軽くする1冊です。

(文:工藤 勇一『麹町中校長が教える 子どもが生きる力をつけるために親ができること』(かんき出版)より一部抜粋/加筆修正:マイナビ子育て編集部)

  • 本記事は公開時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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