「私にやらせて」と自主性が育つ 子供のやる気を引き出す方法

「私にやらせて」と自主性が育つ 子供のやる気を引き出す方法

歴史エッセイストの堀江宏樹さんが、江戸時代の子育てについてお届けする第3弾。育児についての悩みは、どの時代でも変わらず。今回は子供のやる気を出す方法についてです。


江戸時代のしつけはナシ?

Lazy dummy

江戸時代の記録を見ていると、子供が幼い割に、いろいろなことが出来てしまう様子に驚かされることがあります。たとえば、江戸時代後期の“庶民”の育児記録として貴重な『桑名日記』という書物があります。庶民といっても下級武士の家に生まれた渡部鐐之助(わたなべりょうのすけ)という男の子の成長の記録が祖父の目から描かれているのですが、満三歳(現在なら二歳児に相当)の鐐之助が、こたつで、ひとりしずかに絵本を読んでいる姿が出てきます。
絵を見ているだけかもしれませんが、現代では、かなり優秀なお子さんに思えるかもしれません。しかし江戸時代では、むしろ、これは普通のことだったようです。

秀才に見えた鐐之助ですが、現代なら幼稚園・保育園にいく年齢になってもおっぱいを恋しがるので、祖母の胸にくっついていたり(母親は、父親の赴任先に同行しており、鐐之助と一緒に暮らしていない)、一人では寝ることができないので、祖父母に添い寝してもらうどころか、彼らの懐の中に入り込むようにして、密着して眠りたがったそう。甘いものが大好きで、祖父母から寝床の中で、お菓子をもらってそれを食べるという現在ではダメだとされることも、OKというゆる~いしつけを受けていたようです。当時では、それがとくに良くないことだとも思われていなかったようですね。

祖父母にしつけらしいしつけも受けず、溺愛されている「だけ」のように見える鐐之助ですが、現在でいう幼稚園・保育園にあがる年ごろには、すでに自分で服を着ようとし(正確には着物)、一人で歯も磨けるようになっています。完全にはできていないかもしれませんが、自発的に努力はしているわけです。

まだ幼いのに、またガミガミいわれている様子もないのに、出来ることは早い段階で出来るようになっているのはいかにも不思議です。しかし、それは鐐之助が自分で自分のことは一人で出来るようになるのがカッコイイのだと早くから気づけていたからなんですね。

「ぼくにやらせて」と口癖のようにいう鐐之助の姿が、祖父によって記された『桑名日記』の中にはたくさん出てきます。これは、鐐之助がかなり年上の子供たちに憧れ、彼らのマネをしたがったからのようです。

江戸時代の教育は、子供の自立性を重んじます。幼い子供が、家族か近所の年長者のしている「良い習慣」をマネしたがったら、傍目にはいくら溺愛しているように見えても、教育の第一段階は成功したと考えられたのです。鐐之助の成長は、その典型例だったということですね。

系図の記録が曖昧なのですが、おそらくは鐐之助の叔父だと思われる、十代前半、中学生くらいの留五郎という少年やその友達たちからも、鐐之助はよく遊んでもらっています。これが鐐之助の発達に良い影響を与えたようです。留五郎は鐐之助を風呂屋につれていっており、そこで鐐之助は一人で着替えをすることも学んだようですね。

アルバイト先(奉公先)にも幼児を連れて行ける?


また、鐐之助は留五郎のアルバイト先にも連れて行ってもらっていました。
中・高生のアルバイト先に幼稚園児がお邪魔するのと同じことで、これは現代ではなかなか実現しにくい光景です。しかし、社会勉強になったのでしょう。ちなみに、留五郎は漁業用の網のメンテナンスをしていました。家庭の中だけに囲い込まれておらず、幼い頃から共同体の一員という自覚を彼らも持っていたのです。

当時の武士は十五歳くらいで、成人式にあたる「元服」を遂げます。しかし元服後の大人と、元服前の子供たちは、そこまで年齢によって分かれて暮らすような生活はしていません。現代のように、通う学校や学年で子供たちを分断していないからですね。
このため、鐐之助もそうだったのですが幼い子供たちは、自分よりも年長の子供たちに憧れ、早くから彼らのマネをしようと思い、自発的に努力しはじめます。そしてどんどん知的に成長していくわけです。

私事ですが、幼稚園時代の筆者は、ストローを使わなければグラスに入ったジュースをうまく飲めなかった記憶があります。ところがある時、乳母車に乗っているくらいの幼い従兄弟がグラスからジュースを上手に飲んでいる姿を見て衝撃を受け、家に帰ってから意識して頑張った……なんてことがあったのを思い出します。

それと似たような「刺激」を鐐之助は、日常的に受けていたのでしょう。
江戸時代は現代にくらべ、飢饉や病気などが原因で子供が幼くして死んでしまう確率も高く、すべてがすべて良かったわけではありませんが、子供が自然に成長していけるような環境に関しては現代以上に整っていた……そんな社会だったのかもしれませんね。

(C)竹内摩耶
この記事の専門家
歴史エッセイスト・作家 堀江宏樹
1977年生まれ、大阪府出身。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。大学在学中からフリーランスライターとして文筆活動を開始。『仰天! 歴史のウラ雑学 後宮の世界』(竹書房)で作家デビュー。性別を超えた独特の論調で、幅広いファン層をもつ。2016年秋発売の『恐い世界史』(三笠書房)が現在ヒット中。好評近著に『乙女の真田丸』(主婦と生活社)、『三大遊郭』(幻冬舎)。最近の文庫化に『愛と夜の日史スキャンダル』『乙女の日本史 文学編』など。

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