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2021年04月30日 08:20 更新

妊婦はひじきを食べてはいけない?注意したい食べ過ぎの影響と摂取量【管理栄養士監修】

「妊娠中はひじきを食べ過ぎてはいけない」という話を耳にしたことのある人もいるのでは。ひじきは食物繊維やミネラルが豊富で、健康に良さそうなイメージがありますが、なぜ妊婦さんは食べ過ぎに注意が必要なのでしょうか。その理由と妊娠中に食べる量の目安、上手な食べ方を紹介します。

妊婦はひじきの食べ過ぎに注意が必要な理由

まずは「妊婦はひじきの食べ過ぎに注意」という話の理由を確かめてみましょう。

懸念される、ひじきに含まれる「ヒ素」の影響

ヨウ素が多く含まれる乾燥ひじき

「妊婦はひじきを食べ過ぎてはいけない」という話には、ひじきに含まれる「ヒ素(無機ヒ素)」が関係しています。

ヒ素は火山活動や森林火災、鉱物の風化などの自然現象によって放出され、土や水の中に存在しています。そのため、ヒジキに限らず、飲料水や野菜、肉、魚など様々な食品は微量のヒ素を含んでいるので、完全に避けるのは難しい元素です。食品を食べたりすることで体に入った場合、どのような影響があるかは種類や量によります。

ただ、大量の無機ヒ素が短期間のうちに体内に入り込むと、発熱、下痢、嘔吐、脱毛といった症状が現れるといわれています。また長期間にわたり大量に体内に入り込んだ場合、皮膚の色素沈着などの比較的軽度なものから、がんの発生といった重度な健康障害までさまざまな影響があるようです。

ひじきには少なくない量の無機ヒ素が含まれていることがあり、妊婦さんや赤ちゃんは、こうしたヒ素の影響を受けやすい可能性があることが指摘されています。このことが「妊婦はひじきを食べ過ぎてはいけない」という話につながっていると考えられます。

食べ過ぎとなるひじきの摂取量とは

ひじきの小鉢

人がヒ素の摂取する場合の許容量については、WHOが1988年に定めた暫定的耐容週間摂取量(PTWI)というものがあります(注1)。それによると体重50kgの人であれば、1日当たり107μg、1週間で750μgまでを許容量としています[*1]。

厚生労働省の「ヒジキ中のヒ素に関するQ&A」では、乾燥ひじきを水戻ししたものを1週間あたり33g以上継続的に食べない限り、PTWIを超えないとしており、ひじきの煮物の小鉢1つに25〜30gの水戻しひじきがが使われているとすると、1週間にその程度を食べるのであれば問題ないと言えるでしょう。日本では、伝統的食材として古くから食べられていますし、この海藻中に含まれるヒ素によるヒ素中毒の健康被害が起きたとの報告はありません

ひじきばかりに偏って食べるのではなく、多様な食品を摂るバランスのよい食生活を送っていれば、ヒ素による健康上のリスクは高くないと考えられます。

(注1)暫定的耐容週間摂取量(PTWI)とは、食品の消費に伴い摂取される汚染物質に対して人が許容できる(一生にわたり摂取し続けても健康影響が現れない、1週間当たりの摂取量を意味します。

ひじきには妊娠中にうれしい栄養素も豊富

まずはひじきのリスク面を解説しましたが、ひじきには食物繊維やカルシウムなど、妊娠中にも摂りたい栄養素が豊富に含まれています。

妊娠中の便秘予防を助ける「食物繊維」

便秘をしている妊婦

妊娠中は便秘に悩まされる人が少なくありません。妊娠前から便秘気味だった人だけでなく、便通に問題のなかった人でも、妊娠中は女性ホルモンの影響が強まることや、大きくなった子宮に腸が圧迫されることなどにより、便秘になることもあります。

便秘を改善するうえで欠かせない栄養素とされる食物繊維がひじきには豊富に含まれています。日本食品標準成分表2020年版によると、ひじきの炒め煮に含まれる食物繊維の量は、同じ量のきんぴらごぼうより多いのです[*4]。特に、ひじきなど海藻類に含まれている食物繊維は水に溶ける水溶性で、穀類や野菜、きのこ類などに含まれる不溶性の食物繊維よりも大腸内で発酵・分解されやすくなっており、整腸効果に期待ができます。

赤ちゃんの骨をつくる「カルシウム」

ひじきにはカルシウムも豊富に含まれています。

カルシウムは、ひじきなどの海藻類のほか、チーズや牛乳などの乳製品、大豆・大豆製品、緑黄色野菜、小魚、などに多く含まれる栄養素です。日本人は全体的にカルシウムの摂取量が低めの傾向にあり、1日の必要摂取量を満たしていない人も少なくありません。そのため特に妊娠中はカルシウムを積極的に摂ることが望ましいとされています。

成人女性のカルシウム摂取推奨量は1日650mgです[*5]。ひじきのほかに牛乳、チーズ、ヨーグルトといった乳製品や大豆製品、小魚などを上手に組み合わせて、適切な量を摂取していきましょう。

ひじきが鉄分豊富だったのは昔の話?

ひじき煮

ところで、ひじきというと「鉄分が豊富」というイメージを持つ人もいるのではないでしょうか。実は数年前にひじきの鉄は従来の1/9程度と少ないことがわかりました。

ひじきに含まれる鉄分の量には、製法の違い――ステンレス釜を使うか鉄釜を使うか――によって大きなバラつきがあることがわかっています[*6]。これによると鉄釜製のひじきは鉄分が多い傾向にありますが、ステンレス釜製では決して多いとはいえない値になっていることがわかります。「ひじき=鉄分」という図式は、今は成り立たないこともあるようですね。

上手にひじきを食事にとりいれる工夫

ヒ素に注意しながら、ひじきをおいしく、上手に食事に取り入れるためのポイントを紹介します。

ひじきは水に浸して戻す

水で戻すひじき

食品を通じて摂取したヒ素による健康被害は認められていないものの、できることならより安全に食べたいもの。そんなとき、ちょっとした工夫でひじきに含まれるヒ素の量を減らせることがわかっています。

たとえば水に浸して水洗いするだけで、5割程度まで無機ヒ素を減らせたというデータがあります[*3]。ひじきを使う場合は、乾燥ひじきそのまま調理したりせず、30分以上水に浸して水で洗ってから使いましょう。

なお、以下の方法だとさらに多くのヒ素を減らすことができます[*3]。

・ゆで戻し → ヒ素が8割減少
方法:水に乾燥ひじきを入れて火にかけ、5分間沸騰させたのち、水洗いする

・ゆでこぼし → ヒ素が9割減少
方法:乾燥ひじきを30分間水に浸し、戻し水を捨て、お湯に入れて5分間沸騰させたのち、水洗いする

ひじきのゆで汁は調理に使わない

無機ヒ素は水に溶ける性質(水溶性)があるので、水に浸した後の戻し汁やゆで汁などにはひじきから抜け出たヒ素が含まれています。ひじきの戻し汁やゆで汁は料理に使わず、捨てましょう

水で戻したりゆでたりしても、カルシウム、食物繊維、鉄分などの栄養素の7割以上がひじきに残りますよ[*3]。

ほかの食品と組み合わせて食べる

色々な食材とひじき

ひじきには食物繊維などが含まれてはいるものの、食べ過ぎには注意しなければならない食品です。カルシウムや食物繊維といった栄養素の摂取を目的とする場合は、ひじきをメインにするのではなく、ほかの食品を組み合わせて、必要な量を摂取することをおすすめします。

カルシウムはさきほども紹介した乳製品、葉物野菜、大豆・大豆製品、小魚、アーモンドなどに多く含まれています。また、食物繊維は大麦、そばなどの穀類、いも類、豆類、ごぼう、切り干し大根、ほうれん草、果物類、きのこ類などが豊富です。こうした食品と組み合わせて、上手に栄養素を摂取していきましょう。

まとめ

ひじきにはヒ素が含まれますが、1週間に1鉢程度であれば妊娠中に無理して避ける必要はないでしょう。ゆでこぼすなど調理方法に工夫をしつつ、適量を上手に摂取していけるとよいですね。

(文:山本尚恵/監修:川口由美子 先生)

※画像はイメージです

参考文献
[*1]厚生労働省:ヒジキ中のヒ素に関するQ&A(平成16年7月30日)
[*2]株式会社三菱化学安全科学研究所 :ひじきに含まれるヒ素の評価基礎資料調査 報告書(内閣府食品安全委員会 平成18 年度食品安全確保総合調査)平成19年3月
[*3]農林水産省 消費・安全局 畜水産安全管理課:より安全に食べるために家庭でできるヒジキの調理法
[*4]文部科学省:日本食品標準成分表2020年版(八訂)第2章(データ)
[*5]「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書 Ⅱ 各論 1 エネルギー・栄養素 ミネラル(多量ミネラル)
[*5]文部科学省 科学技術・学術政策局:日本食品標準成分表に関するQ&A(平成31年1月)

※本記事は子育て中に役立つ情報の提供を目的としているものであり、診療行為ではありません。必要な場合はご自身の判断により適切な医療機関を受診し、主治医に相談、確認してください。本記事により生じたいかなる損害に関しても、当社は責任を負いかねます

  • 本記事は公開時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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