【File61】生まれたての小鹿事件
今振り返れば「イタいな、自分!」と思うけれど、あの時は全力だった恋愛。そんな“イタい恋の思い出”は誰にでもあるものですよね。今では恋の達人である恋愛コラムニストに過去のイタい恋を振り返ってもらい、そこから得た教訓を紹介してもらう連載です。今回はつかふる姐さんのイタい恋。
今では多くの女性から恋愛相談をいただき、「心理学×夜職スキル」を武器に幸せのお手伝いをしている私ですが。若い頃はありました、イタい恋の1つや2つ……。
嘘です。ほぼ毎回イタい恋しかしてませんでした。
今回は、Twitterでもnoteでも未公開の、私の恥ずかしい“イタい恋”についてお話ししたいと思います。
超絶好みのイケメンモデル
つかふる姐さん20代半ば。当時は毎晩のように銀座に出勤し、荒稼ぎしておりました。彼氏をつくる余裕は物理的にも精神的にも無く、来る日も来る日もおじさんの相手ばかり……。
そんな私の楽しみは、当時本格的に流行り出していた「出会い系サイト」でした。隙間時間にサイトを開き、キュン♡とくる男の子を見つけては、ささやかなメッセージ交換をするのが癒しとなっていたのです。
そんなある日私は、好み直球ど真ん中、超絶ニュアンスイケメンの写真を見つけてしまいます。
震える手でプロフィールを7回くらい熟読すると、そこまで有名ではないものの、プロのモデルを目指して仕事している人のようでした。
どこか陰のある表情と、少し長めの黒髪。透き通るような肌、美しい鼻筋、深くアンニュイな瞳。堪らずロック・オンしました。
真夜中の来訪
彼はメッセージまでイケメンで、口数少なくそっけなく、でも思慮に富んだ言葉をいつも返してくれました。互いのことを伝え合いつつ、文面でのやりとりは2、3カ月ほど続きました。
秋の初め頃だったでしょうか。珍しくお店を休んだ夜のことでした。
彼が突然、「今から会いに行っていい?」と。
い……今から……?
時刻は22時半。当時は近場に気の利いた店もなく。
「車で行くから、住所教えて。近くのコンビニとかでいい」
い、いきなり家来るんかい!
突然のことに一瞬パニックになりましたが、まあ待て、落ち着けと。
しばらくは夜の店も辞められないし、どちらにせよ付き合えないんだし、恋の始まり方がどうとかあまり気にしなくてもいいんでないの。むしろ彼の性格を考えたら、このタイミングを逃したら二度と会えない確率のが高いよ。
確かに。
短い脳内会議の後、私は覚悟を決めました。
よし来い!
(怖いもの知らずの好奇心と潔さは今も昔もあまり変わっていないようです)
初めての顔合わせ……そして……
近所のファミリーマートに車を停めて降り立った彼は、なんという事でしょう。写真の150倍くらいセクシーでした。
彼は律儀にも有料パーキングに車を移し、私の部屋へとやってきました。
冷蔵庫に残っていた甘口のドイツワインを分け合ったのですが、飲み終わらないうちに、私の頬に触れてくる彼。
私の顔を覗き込む、その眼……!
彼がTシャツを脱いだ瞬間、その裸体のあまりの神々しさに、気づいたら私は祈っていました。ああ神よ、この世で一番綺麗な生き物は猫だと思っていたけれど、撤回します。それは今私の目の前にいる男性です。
私の体は極度の興奮と緊張で硬直状態となり、言葉もほとんど発せなくなってしまいました。彼はそんな私を気遣うようにして、ゆっくり優しく、かつ的確に触れてくれました(上手でした)。
そしてとうとう、「挿れるよ?」的なあの瞬間……。
!?
地震!?
いや、脚だ。私の脚が震えてる……!!!
そう、よりによってこのタイミングで私の脚は、まるで生まれたての子鹿のようにガクブル震え出してしまったのです。
「え……」
何が起こったのか全く理解できない彼。
いや、まだ何も入ってないけど……? 的な戸惑いの表情。
彼もその時は興奮状態だったので、気づかないふりでもう一度試みようとしてましたが、私の脚は依然、掴んでいる彼の腕まで震わせるほどの痙攣っぷり。これは……まさかの、震えすぎて的が定まらない状態……?
彼は私が恐怖や不安で震えていると思ったのでしょう、やがて諦めたように手を離し、「ごめん」と小さな声で言いました。「怖い思いさせちゃったかな」
一方の私は、「いや待って! これはね、興奮からくる震えです。武者震いってやつですよ旦那! こっちは準備万端、ベリーウェルカムなんですよ!」と言いたいところなんだけど、ここまでの無言恥じらいキャラが邪魔して何て表現していいか分からない。まだ脚も子鹿状態だし。
彼は私の裸体にタオルケットをかけると、髪をかきあげてベッドから立ち上がりました。窓辺に立って外を見つめながら、放心状態で小さく息をつく音が聞こえました。
私はそれを見て理解したのです。
「あ、この恋、終わった」と。
そしてただただ、彼の最後の姿を瞳に焼きつけました。
その時の彼の華奢な背中と芸術作品のような美しいお尻。目を閉じれば今も鮮明に浮かんできます。
イタい恋から得た教訓「恋愛は自分でコントロールできないことが多い」
何故、よりによってあのタイミングで脚が震えたのか。何故瞬時に上手い対応ができなかったのか。2年くらい後悔しました(長い)。
だけど、人生って、自分の力ではコントロールできないこと、結構多いんですよね。恋愛もそう。相手の気持ちだったり、タイミングだったり、脚の震えだったり。
そういう時は、「ご縁が無かった」「今はその時じゃなかった」ということなのかもしれません。そんな風に考えられる今は、煩悩や後悔ももっと柔らかく手放せるような気がします。
いやー、イタい恋。良いですねえ。
器用でお洒落な恋よりも、本気で飛び込んで、無様に失敗して、ボロボロに傷ついた恋の方が、ずっとずっと価値があったなあと、今は思います(美しいお尻は今も宝物です)。
皆さんも、どうか素敵でイタい恋を。
(文・つかふる姐さん、イラスト・菜々子)
※この記事は2022年09月11日に公開されたものです