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アトピー性皮膚炎の「正しい理解」と「これからの治療」

猿川佑

夏が近づき、日中は汗ばむことも多くなってきました。半袖がちょうどいい温度感になり、肌の露出面積もだいぶ増えてきている。肌のトラブルを抱えている人にとっては、なかなか悩ましい季節です。

現在、日本でアトピー性皮膚炎と診断された患者数は約434万人にも上り、その数は年々増加傾向にあると言われています。病院で診断を受けていないだけで、実はアトピー性皮膚炎を患っている人も少なくないでしょう。

先日、大塚製薬がプレス向けセミナー『アトピー性皮膚炎の正しい理解とこれからの治療』を主催しました。そこで語られたのは、なかなか治りづらいイメージのあるアトピー性皮膚炎も適切な治療やケアを続けることで「症状が起こらない状態」を保てるという事実でした。

中途半端なステロイド外用薬の使用は症状の悪化を招く!?

セミナーではまず、あたご皮フ科の副院長で、東京逓信病院皮膚科客員部長でもある江藤隆史氏が「これだけは知っておいて欲しい!アトピー性皮膚炎に関する正しい知識」と題した講演を行いました。

江藤氏によると、アトピー性皮膚炎は「増悪と軽快を繰り返す瘙痒のある湿疹を主病変とする疾患」で、アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018では治療のゴールについて、「症状がないか、あっても軽微で、日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない状態に到達し、その状態を維持すること」と定められています。

過去、治療のゴールを目指すうえで大きな障壁となったのが、1980年代から続いた「脱ステロイドブーム」だったようです。

「ステロイド外用薬はアトピー性皮膚炎によく効きます。しかし、本来ステロイドとは関係のない症状が“副作用”としてメディアで報じられ、多くの人が不安視したことで『ステロイドは使わないほうがいい』という誤解が広まってしまいました」(江藤氏)

一方で、ステロイドを塗っても「効果がない」「塗ってもどんどん悪くなる」と悩んでいる患者もいるそう。江藤氏によると、それらのケースの多くは、「ステロイドは使わないほうがいい」という誤情報を信じてしまったせいで、ステロイド外用薬を「薄めに塗っている」患者とのことです。

「ステロイドが怖いからと薄く塗り込んだり、少量で治したいと考えている人が多いんです。でも、量が足りないと症状は悪化しますし、むしろ、ステロイド外用薬は過剰に塗ってあげないといけません。また、症状が落ち着くとケアをやめて、悪化すればまた塗ればいいという誤解もされています」(江藤氏)

ステロイド外用薬の量を減らし、比較的症状が軽めの状態でも、「それが10年も続けば皮膚は厚ぼったくなってくる」と江藤氏は指摘。「これもステロイドの副作用だと思われがちですが、実は中途半端なステロイドの用い方をした結果。軽快後の不十分なスキンケアが皮膚を黒く、厚くしてしまうんです」と訴えました。

一度に塗るステロイド外用薬の量は「1FTU(Finger-tip unit)=0.5g」が目安となるようだが、「テッシュを垂直にして肌に当てても落ちないくらいベトついていたほうがいい」と語り、中途半端なステロイド外用薬の使用は症状の悪化を招くと繰り返し強調しました。

時代が進み、「ステロイド外用薬以外の治療選択肢も増えてきた」

続いて、広島大学院医系科研究皮膚科学の准教授である田中暁生氏が、アトピー性皮膚炎診療の進歩と新しい治療について講演。

毎年、広島大学の新入生を検査すると、アトピー性皮膚炎の有症率はなんと10%前後にも上るそう。しかし、実際に医療機関にかかっているのはわずか30%程度で、軽症のみならず、中等症でも自宅で治療している学生が多いようです。

医療機関で受診しない理由については、「時間がない」「お金がない」「治療に希望が持てない」の他に、やはり「ステロイドが怖い」という声も根強いそう。

しかし、年齢や重症度は関係なく適切な治療はすべきで、まずはステロイド外用薬などの治療薬を使って痒みや炎症を軽減する「寛解導入療法」を行い、その後は様子を見ながら間隔を空けつつ、定期的に外用薬を投与して「寛解の維持」に徹することが重要だと田中氏は説きます。

「私が診ていた50代の女性は、最初の頃、『毎日ステロイド外用薬を塗っているけど痒くて眠れない』と悩んでいました。全身に湿疹があり、脚もパンパンに腫れた状態だったので、まずは1日2回のステロイド外用薬を塗ることにしました。すると、1ヶ月後には足もかなりスリムになりましたし、その後は様子を見ながらステロイド外用薬を1日1回の使用に減らし、3年後には保湿のケアだけでいい状態になりました。この状態になって、すでに6〜7年が経ちます」(田中氏)

田中氏もやはり「外用薬は中途半端に塗っても意味がありません」と断言し、症状が良くなってきたところで徐々に外用薬の使用回数を減らすのが効果的だと語っていました。アトピー性皮膚炎を発症した生後6ヶ月の幼児も、ステロイド外用薬を正しく塗るようにしたことで、わずか2〜3ヶ月間でステロイドフリーの状態まで軽快したそう。

「注射や内服薬と違い、外用剤は塗り方によって効果に雲泥の差が出ます。今では塗り薬以外にも多くの外用剤が出てきましたし、ステロイド外用薬以外の治療選択肢も増えてきました。アトピー性皮膚炎は『寛解導入』と『寛解維持』を意識した外用治療によって症状は劇的に改善し、長期予後も改善することが期待できます」(田中氏)

また、副作用トラブルが起きる可能性もあるが、外用薬は内用薬や注射などと比べて比較的にリスクは少ないとし、「自分に合った外用薬を探すために、まずは一気に薬を変えるのではなく、部分的に使って刺激感を試しつつ、安心感を得ていくことがいいと思います」と語っていました。

(猿川佑)

※この記事は2022年06月14日に公開されたものです

猿川佑

グルメやライフスタイル、ガジェット、SDGsなど、幅広い分野で取材・執筆にあたるお調子者ライター。

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