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【File50】アイドルガチ恋からの二次災害恋愛談

#イタい恋ログ

みくりや佐代子

今振り返れば「イタいな、自分!」と思うけれど、あの時は全力だった恋愛。そんな“イタい恋の思い出”は誰にでもあるものですよね。今では恋の達人である恋愛コラムニストに過去のイタい恋を振り返ってもらい、そこから得た教訓を紹介してもらう連載です。今回はみくりや佐代子さんのイタい恋。

執筆の仕事をしていると、便利だなと思う。何がって記憶の改ざんが。自分にとって都合の悪い黒歴史のあれやこれやを封印し、温もりのあるエピソードのみに編集することができてしまう。

そんな折にやってきた今回の「イタい恋ログ」の執筆依頼。つ、ついに心のパンツを脱ぐ時が来たか……。そんな気持ちで筆を取りました。ライターの「みくりや佐代子」と申します。

イタい恋と聞いて真っ先に思い出したのは、アイドルに恋をした中学生の私。そして、そこから時を経て起こった二次災害的な恋愛についてです。

KinKi Kids 堂本剛くんにガチ恋をした私

小学生の頃から応援していたKinKi Kidsの堂本剛くんへの思いは、徐々に恋心へと発展し、気づけばファンの域を超えて生活の全てになっていた

当時中2だった私は剛くんの公式身長・166cmに合わせて教室の壁を削り(!)、印をつけて、そこにガムテープで自分の手鏡を貼り「剛くんから見た私はこの角度か!」と自分の顔を映しては発狂して照れていた。早速イタすぎて頭がクラクラしている。とても最後まで書き切れる気がしねえ……!

他にも授業のノートに自分の名前ではなく「堂本佐代子」と書いて先生にガチめに注意され(修正テープで消しました)、プリクラ帳にはソロ曲の歌詞を書き連ね、地方では週遅れで放送されていた深夜バラエティ『堂本剛の正直しんどい』の録画をビデオテープに落とすことを生きがいとしていた。

そんな激イタな私でも学校で浮かなかったのは、周りにオタクが多かったからだ。ある友人はサッカー選手の鈴木隆行に、また別の友人は当時EXILEのリードボーカルだったSHUN(清木場俊介)にガチ恋していた。

中には普通に一個上の先輩に恋をしていた健全な友人もいたのだが、彼女は毎晩深夜にどデカいゴールデンレトリバーを散歩させ、真っ暗な山のてっぺんまで登って大好きな先輩の家の2階の電気がついているかを確かめに行くという一番ヤベー奴だったので、私のヤバさなんてかわいいものだった。その友人から夜中送られてくる「Light On・・・☆ 先輩まだ起きてます☆」という謎の報告メール、生涯~忘れる~ことはないでしょう――――……。

好きになった人は奈良県出身AB型。運命だと思った

そんな推し文化がポピュラーな環境で育ったものの、自然とオタ卒し、大学生となった私。友人関係だった同級生の男の子が「俺、AB型やねん」と言った瞬間、この世の全ての風が私目がけて吹き荒れた気がした。AB型! 関西弁! つ、剛くんと一緒~~~~~!?!?!

すると目の前にいた冴えない男子学生が、はちゃめちゃに輝きを放ち始めた。よく見たら左右非対称のくりくりした目(剛くんと一緒)、お世辞にも高いとはいえない身長(剛くんと一緒)、ほんの控えめに開いた小鼻(剛くんと一緒)!!!

脳内で(剛くんと一緒)の相づちが入るたび、胸の高鳴りが激しくなっていく。あのー、恋、しました。

さらに彼が奈良県出身であること、ギターが弾けること、マイナーな音楽に詳しいことも私の恋心をどんどん暴走させた。勢いのまま距離を詰めて告白し、晴れて「剛くんっぽい人」の彼女になったのである。

超モラハラな彼と別れられない!

しかし、恋人になり楽しく過ごせていたのも最初だけ。いざ付き合ってみると「束縛が激しく、すぐに感情的になる」という彼の知らなかった面が見えてきた。

一度気に入らないことがあれば物を投げたり床を踏み鳴らしたり。女友達と出かけていても「女しかおらへん証拠は?」と冷たい態度。友達との写メを送らないと納得しない。また、少しでも返信が空けば「ふあん」とメンヘラ全開なメールが来た。

特に理不尽だと思ったのが、彼が関西への帰省を早めに切り上げた時のこと。ケンカのはずみで「行くはずだった関西の音楽フェスのチケットが無駄になった」と言い出し、「お前のために帰省を早めに切り上げてやったのだから、チケット代金を払え」と詰め寄られたのだ。

泣く泣く5,000円払った私は、心の中で何度も叫んだ。

こんなの全然剛くんじゃない! 剛くんの喋り口調はあんなに優しいのに、男の関西弁ってこんなに怖いの……!?

そんなわけで約半年ずーっとうっすら別れたかったのだが、彼がすぐに弱って「ごめんなあ……」だとか「俺ほんまダメやねん」などと言い出すと、「繊細なところは剛くんと一緒かも。守ってあげなくちゃ」と考えてしまう。典型的なダメンズホイホイ……。

離れられない日々が続き、結局別れられたのは付き合い初めて一年が経った頃だった。親を巻き込み、友人に迷惑をかけるなど、本当に苦労の多い恋愛だった。

自分の間違いに気づいた瞬間

時は変わって2009年。もう恋愛での波乱はコリゴリだった私は「一人って最高じゃね?」というフェーズに突入していた。その日も、剛くんの「剛 紫」名義のコンサートを目当てに一人で大阪城ホールへ出向いていた。

アイドルでありアーティストでもある剛くんは、相変わらず笑顔が可愛くて、平和的で、そして何よりとてもリラックスしていて、私は菩薩の笑みで遠い剛くんを見つめていた。

そして思った。こんなに素敵な人が世界に二人いるはずがない。だからこそ剛くんの生み出す表現を求めて、これだけの人が集まっている。

そこでハッと気づいたのだ。世界にたった一人の剛くん。それなのに私は「剛くんみたいな人」を探し、あろうことかその勝手な理想を赤の他人に押し付けていた。自分の理想として。それって激ヤバなことじゃないだろうか……。

関西人だから。AB型だから。剛くんに似ているに違いない。剛くんみたいに面白くて優しいに違いない。

そうやって人物像を決めつけていた身勝手な人間は、ほかならぬ私ではなかったか?

サーっと血の気が引いた。私、めっちゃ失礼なことしてたじゃん。でももう遅い。被害者ヅラ全開で友達に元彼の悪口言いふらしてしまったよね。ごめん、元彼……。

これが、改ざんなし・エモさゼロのイタい恋の結末だった。

イタい恋から得た教訓「身勝手に判断し、勝手な理想を押しつけない」

思い出すだけで胸がイタくなる過去の恋。この経験から得た教訓はズバリ「他人に勝手な理想を押しつけるな!」

SNSの発達やマッチングアプリの普及から、直接関わりを持たなくても相手を知ることができる時代だ。だからこそ、相手のスペックから「おそらくこんな人だろう」と一方的に判断してしまうという落とし穴もある。

誰もが一人ひとり違った人間であり、それぞれの人生を歩んでいることを尊重しないといけない。みんな決して「誰かのクローン」ではないのだから。恋愛で大切なのは、ありのままの相手を積極的に知ろうとすること。そう声を大にして言いたい。

とはいえ、「この人とこんな恋愛をしてみたい!」と思わせてくれるアイドルは本当に尊い。「身近な誰か」に理想を押しつけないのであれば、アイドルとの恋愛を夢見るのは間違ったことではないはずだ。アイドルの皆様、毎日の活力をありがとう!

私は、アイドルに夢中な全ての女子たちの姿にかつての自分を重ね、心から応援し続けます。あなたのこれからの恋にLight On・・・☆

(文・みくりや佐代子、イラスト・菜々子)

※この記事は2022年05月15日に公開されたものです

みくりや佐代子

プロフィール:広島在住のライター・エッセイスト。著書に『あの子は「かわいい」をむしゃむしゃ食べる(インプレス)』『働く女の「しないこと」リスト(ICE新書)』がある。趣味は匿名で純猥談を書くこと。

みくりや佐代子|note
みくりや佐代子さん (@chaco_note) |Twitter

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