誤用が多い「なし崩し」の意味と使い方【例文付き】
「なし崩し」の誤用例
「なし崩し」本来の意味を理解していないと、勘違いが生まれます。
中でも、「物事を少しずつ変化させ、うやむやにしてしまうこと」という意味の「うやむや」(はっきりしない、曖昧でいい加減だ)というニュアンスにばかり注目し、「なし崩し」=「ごまかし」だと思い込み、「借金や約束などをなかったことにする」という意味だと誤解しているパターンが多いようです。
他にも、漢字変換が「無し崩し」であると誤解し、「なかったことにする」「崩してなくしてしまう」という意味だと思っている人もいます。
正しい漢字表記は「済し崩し」であり、「済す」は借金の返済を意味しています。
つまり、「なし崩し」には、「少しずつ導入してうやむやにする」という意味はありますが、それは「なかったことにする」ではありません。『岩波国語辞典」(岩波書店)にも、「急に形を失って無くなる意に使うのは誤用」と書かれています。
以下のような文例は、「なし崩し」の辞書的な定義からすると、誤用だといえるでしょう。
・忙しさを言い訳にして、頼まれた仕事をなし崩しにする。
・先人の努力をなし崩しにするような、おかしな真似はよせ。
■「なし崩し」の類語や言い換え表現
平成29年度(2017年度)の文化庁「国語に関する世論調査」によると、「借金をなし崩しにする」という例文に対し、適切な意味の「少しずつ返していくこと」で理解できている人よりも、不適切な意味の「なかったことにすること」で認識している人が多いという結果になっています。
若い人ほど間違っている、というよりは、全世代が勘違いしている状態です。なんと50代では、他の世代よりも高く、72.8%の人が誤解しているといいます。
正確な意味を知らない人がここまで多いとなると、言葉の意味が変わりつつある、新たな意味が生まれている、ともいえる状況です。
こうなってくると、ビジネスなどのコミュニケーションでは、「自分が正しい意味で使う」というだけでなく、「誤解されそうな場面・文脈では、『なし崩し』は使わない」という注意も必要になってきます。
例えば、「借金をなし崩しにする」とは言わず、「借金を少しずつ返す」と言い換えるようにするのです。誤解のない表現に置き換える、という親切です。
ここで、「少しずつ」以外にも、「なし崩し」の代わりに使うことのできる、類語・言い換え表現を知っておきましょう。
・徐々に
・緩やかに
・段階的に
・じわじわと
・一歩ずつ
・漸進的(ぜんしんてき)に
「なし崩し」の本来の意味を知った上で、正しく使いこなそう
「なし崩し」は、「借金を少しずつ返す」ところから広がって、「少しずつ行う」「少しずつ行って既成事実化してしまう」という意味も持つようになった語です。
意味が複数ある上、誤用している人も多い表現なので、使われている文脈をよく確認して、ここではどのような意味なのか考えてみると良いでしょう。
また、誤用している人が多い分、「少しずつ」という元の意味で使いたい場合には、言い換え表現に置き換えた方が安心でしょう。
(吉田裕子)
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※この記事は2020年06月30日に公開されたものです