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第44話 御曹司と居酒屋

「もしかして、今の話……」
佐伯の眉間に思いっきり皺が寄っている。
床に散らばったコーヒーを片付けなくちゃ
いけないんだけど、それどころじゃない気もする。
来たばっかりで何も聞いてないっていう言い訳、
通用するかしら。
「……人が来たから話はまたあとで」
佐伯は電話を切ると、
一歩一歩、階段を下りてくる。
「どこからどこまで聞いたんですか?」
嘘を見逃すまいとする強い瞳。
これは……下手にごまかしたら
余計に嫌われてしまいそうだ。
「息子がどうのこうの……ってとこから?」
語尾が疑問形になってしまったのは
やむを得ないだろう。
妙に迫力あるんだもん。この子。
「……ほとんど全部じゃないですか」
佐伯はふぅ、と長いため息をつくと、
私に笑いかけた。
佐伯お得意の感情のない営業スマイル。
「今夜はセンパイのおごりですね」
「ハイ……」
私は降参して両手を挙げた。

その夜、佐伯に連れて行かれたのは
学生時代によく通ったような
安い居酒屋チェーンだった。

「ちょっ、いくらなんでも私、
もう少しお金持ってるよ」
「僕が、こちらのほうが落ち着くんです」

ええー。今までのスタイリッシュキャラは
どこへ行ったのよ。
混乱する私をしり目に、佐伯は慣れた様子で
背広を脱ぎ、ネクタイをゆるめた。
普段はきっちりと隠された首元からのぞく
鎖骨にドキッとする。
「センパイ、とりあえず生でいいですよね」
いつもの優雅な所作はどこへやら、
ドカッと座布団に腰をおろし、
店員を呼びつけ、生ビールを2つ注文する。
この店、ビール1杯280円よ。
なんでこんなに慣れてんの?
御曹司に似合わなさすぎる……。

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