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第16話 存在の否定

緑川先生は忙しそうに立ち去った。
おじぎをして見送りながら、悔しさに奥歯を噛んだ。
だけど、悔しいからといって、何かできるわけじゃない。
薬を決めるのは、医師の自由だ。
とりあえず、うちの薬を使ってくれているほかの病院でも
ゲルニート製薬に変更する動きがないか、急いで確かめないと。
すぐにほかの病院を回ろう。

エレベーターを待っていると、
背後で「こんにちはー」と明るい声が聞こえた。
ふり向くと、丁字路の先で、ゲルニート製薬のMRが
若い看護師に話しかけているのが見えた。
「今日も暑いですね」
「私たちは建物の中にいるからいいですけど、
外回りをするMRさんは大変ですね」
「着替えのシャツを3枚持ち歩いてますよ」

――あいつだ。
あいつが緑川先生にうまく取り入ったんだ。
いつもいろんな看護師に声をかけていて、軽い感じがする。
廉に似ているのは、顔立ちじゃなく、この軽い雰囲気だ。

緑川先生は、あいつのどこが気に入ったんだろう?

MRは業界ルールで接待や金品の贈与が禁止されている。
だから知識や人間力で勝負するしかない。
それなのに、あんなヤツに負けたと思うと、
自分の存在意義そのものを否定された気がしてきた。

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