お使いのOS・ブラウザでは、本サイトを適切に閲覧できない可能性があります。最新のブラウザをご利用ください。
専門家 生活

え、そんなことがダメ!? 遊女が客前で絶対にやってはいけないこと「おなら」

堀江 宏樹

傘遊女が客の前でしてはいけないNG項目は、たくさんありました。思わずやってしまうようなことに限ってダメなんです。たとえば「笑う」ということもダメだったのですね。
遊女は優雅にクールに構えているのが一番。
そのために、ときどき「にっこり笑う」なんてのはよいのですが、「プッと吹きだしてしまう」とか、「大声をあげて笑う」というような行為は、遊女の威厳に傷を付けるため禁止でした。
そもそもNG項目の筆頭格は……というと、意外かもしれませんが「おトイレに行くこと」ではないんですね。最悪なのは、客前でおならをすることでした。まぁ現代の接客業でも同じようなものですが、遊女の世界では、おならをしてしまうことを「取りはずす」と特別に表現し、大失敗としていました。

禿がお座敷でおならをしてしまうこともありました。ハイクラスな遊女は、身の回りの世話を禿(かむろ)と呼ばれる少女たちにさせていますが、禿の犯した大きなミスは自分の大きなミスでもあるのです。

京都の高級遊郭街・島原のある遊女は禿のおならに激しく怒り、「なんてお下品! そこに立ちなさい!」と叱りつけました。禿がウジウジして立とうとしないので「さぁ、お立ちなさい」と再度注意したとき、遊女自身が音を立てておならをしてしまったそうな。しかし、さすがはプロの女、しれっとした顔で、「まずは私が立ちましょう」と、座を繕ったそうです(『軽口御前男』)。

ふだんは取り澄ました遊女がおならをする場面に立ち会えることは、遊郭ファンの間でひそかなニーズがあったようですよ(笑)。井原西鶴も彼の代表作『好色一代男』の中で、そのシーンを描いています。『好色一代男』の主人公は、絶世の美男子のハンサムボーイ。そしてモテモテの遊び人の世之介(よのすけ)という男です。

ある時、世之介は吉田という格式高い接客をウリにしている遊女と出会います。江戸の吉原でも大人気の吉田は、万事を優雅に、威厳を持って振る舞っていたのです。が、彼女が「勝手へ立ち様に(トイレに行こうと席を立った時)」、廊下の途中で大きな音でおならをしてしまったそうで。世之介は吉田の思わぬ粗相に大爆笑。

そのまま歩き去った吉田が座敷に戻ってきたら、からかってやろう、と待ちかまえていましたが、吉田はなかなか帰ってきません。
「恥ずかしくて出てこれないのだろう」と言っているうちに、吉田は衣裳をすべて着替え、さらに手には桜の枝まで持って再登場。自分がおならをしてしまった廊下の敷板の上に立ち、「ここは音がするので、お気を付け下さい」と。
世之介が廊下に出て、その敷板を踏んでみるのですが、音は当然、出ない……とか試していると、「今日は止めておきましょう」と吉田から断わられた、という顛末が描かれております。世之介は、吉田の遊女としての誇りを傷つけ、モテ男としての評判も落としてしまった……という内容でした。
なお、吉田という遊女は井原西鶴の時代に実在しており、気が強く、客を振りまくるので有名だった一方、おならをよくすることでも有名だったそうです(笑)。それを実名で作品に登場させてしまう井原西鶴もイケズだと思いますが、そもそも現代人の感覚では「おならで、そこまで!?」と呆れてしまいますよね~。

遊女は服装にも細かいルールがあり、(少なくとも客の前では)真冬でも足袋を履けません。身体が冷えるとそれだけでおならは出てしまいがち。現代のみなさんも音の粗相してしまった時は、吉田のように威厳を持って誤魔化してみては……って笑ってしまって、無理ですよね(笑)。


———————————
著者:堀江宏樹
角川文庫版「乙女の日本史」を発売中
———————————

※写真と本文は関係ありません

お役立ち情報[PR]