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【新連載】28歳、私の一番きれいな時期はもう終わったのかな……

事務室を出てキャンパスに降りると、
湿気の多い瑞々しい空気を深呼吸した。
見上げると大木に育ったキャンパスの樹木が、
風に大きく揺れている。
霧雨なので、傘はささない。
「ここって、いいところだなあ」

在学中はちっともそう思わなかったけど、
キャンパスに建つ校舎は、
どれも建築物としてとても優れていて、
見ているだけで癒される。

駅へ向かう道の途中の、たい焼き屋。
いつもサークル仲間と集まった居酒屋。
衣料品店はチェーン店に代わったけれど、
その他の道の景色は、ほとんど変わりがない。
たまにタイムスリップしたように感じる。

でも電車に乗り込み、窓にうっすらと映る、
自分の顔はやはり年をとったと思う。
「いろいろ、がんばってきたしね」

わたしはゆっくりと、前職を思い出す。
医療機器販売の営業はハードだったし、
よくない恋もしていたので、
毎日心身ともに、クタクタだった。

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