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71話 今さらの告白


私たちはブパサニワットに行き、千紘さんと3人でグラスを合わせた。
「おかえり。いつまでいるの?」千紘さんがぶっきらぼうに尋ねた。
「あさってには、NYに戻るよ」
「じゃあ、明日もおいでね」
それだけ言うと、グラスを手に私たちから離れ、
カウンターの隅で本を読みはじめた。彼女流の気遣いだ。

「日本に来るなら、連絡をくれればよかったのに」と私は言った。
「迷ってたんだ」と和哉は応えた。「でも、夕焼けの中にいる
莉緒を見た瞬間、なにを迷っていたんだろうって思ったよ」
心臓がトクンと鳴った。
「莉緒がいなくなって、部屋が広かったことに気づいた。
去っていく方より、去られる方がつらいんだな。
去っていく方には、決意があるからいい。
でも、去られた方には、喪失だけが残る」
喪失。それはつまり、和哉の心の中に、私の存在があったということ。
「もう1年NYで働いたら、東京に戻る。
それまで待っていてくれないか?」
和哉から思わぬ言葉が飛び出した——。

「どうしちゃったの? 和哉らしくないじゃない」
まっすぐな和哉の視線から、私は目をそらした。
嬉しいはずの言葉なのに、今さら、と思ってしまう。
「ひとりになって、莉緒に言われた思いやりの意味、ずっと考えてた。
知らなかったんだ、寂しいって気持ちがどれだけつらいのか。
好きな女に、そんな思いをさせちゃいけなかったんだよな」
その言葉をNYにいたころに言ってくれていたら……私たちは永遠に
わかりあえないのだと絶望する前に、そんな風に思ってくれていたら……。
【登場人物】
一之瀬莉緒(28) 化粧品会社の広報。ニューイヤーのカウントダウンのため、1人NYを訪れ……。
藤木和哉(29) テレビ局のディレクター。NYのカウントダウンで莉緒と知り合う。
古川渉(29) 食品会社の広報。仕事がらみで莉緒と知り合いに。時々食事に行く仲。
奥村千紘(52) バー「ブパサニワット」のオーナー。
大谷美紀恵(33) 莉緒の上司。

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