お使いのOS・ブラウザでは、本サイトを適切に閲覧できない可能性があります。最新のブラウザをご利用ください。

67話 別れの決意


和哉はいつもどおりのクールな顔をしていた。「編集室で拾ったんだ。
ジェーンのだと思う。渡そうと思って、忘れてた」
——ジェーン。その名前を聞いたとたん、激しい痛みが胸を刺した。
嫉妬、不安、疑い、憎しみ……いくつもの感情がまじりあった痛み。
私は長く息を吸い、そうした感情をすべて押し殺して言った。
「日本に帰ろうと思う」

和哉の顔色が、はじめて変わった。
そして、あせった声で「このピアスは本当に拾ったんだ」と釈明した。
「ピアスのことは、本当なんだろうと思う。
でも、そんなことが理由じゃないの」
和哉の眉が、不安げにゆがむ。
「前に、もしも地震が起きたら、って例え話をしたでしょ。
もし地震が起きたなら、私も和哉と一緒に誰かを助ける、
そんな『本物のパートナー』でありたいと思う。
でも、今のままじゃムリ。このままじゃ、自分自身に自信が持てない。
今の私はただ和哉に、和哉との生活に、しがみついているだけだから」
英語の勉強も、外資系への転職も、本当にやりたいことじゃなかった。
自分をごまかして生きている私が、自信なんか持てるわけない。
自信がないから、和哉のことも信じきれないんだ。
「和哉のこと大好きだった。本当に、本当に、今も大好き。
でも、このままじゃ私は、自分のことを嫌いになってしまう」

私は目を閉じた。和哉の瞳を見なくてすむように。
そして、告げた。「私たち、別れましょう」
【登場人物】
一之瀬莉緒(28) 化粧品会社の広報。ニューイヤーのカウントダウンのため、1人NYを訪れ……。
藤木和哉(29) テレビ局のディレクター。NYのカウントダウンで莉緒と知り合う。
古川渉(29) 食品会社の広報。仕事がらみで莉緒と知り合いに。時々食事に行く仲。
奥村千紘(52) バー「ブパサニワット」のオーナー。
大谷美紀恵(33) 莉緒の上司。

お役立ち情報[PR]