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62話 究極の愛を見た


和哉の涙をはじめて見た——驚いた私はすぐに視線を映画に戻した。
泣いているところを見られるのは、嬉しくないだろうと思うから。
やがてENDマークが画面に出ると、「泣けたね」と声をかけた。
すると和哉は「ああ」と、そっけない口調で応えた。
そうだ、和哉はこういう人なんだ。
強く生きるためにつけた心の鎧。その内側に、優しい心を持っている。
一見、冷たく見えるけれど、本当は優しくてまっすぐな人なんだ。
そう思ったら、大谷さんとの仕事よりも、
和哉との生活に心が大きく傾いた。

映画の感想を言い合ううちに、昔見たドキュメンタリーを思い出した。
「テレビで見た老夫婦の話だけど。
奥さんが痴呆症になっちゃって、ダンナさんが施設に面会に行くの。
すると、奥さんが嬉しそうに走ってきて、ダンナさんに抱きついて、
『誰かわかりますか?』って施設の人が聞くと、
奥さんは『大好きな人』ってくしゃくしゃの笑顔で答えて……。
ダンナさんも嬉しそうに奥さんを抱きしめて、
『本当はずっと一緒にいたいのに』ってつぶやいて泣いてた。
痴呆ですべてを忘れても、愛だけは残ってるんだなって思った。
これって究極の……本物の愛じゃない?」
和哉は涙目のままで「そうかもな」とうなずいた。
「本当の運命の相手なら、自然に愛し合えるはず。
愛があったら、自然と思いやりを持てるはずって、思うの」
「思いやりって、連絡をまめに入れることか?」
和哉の声にトゲが含まれた。
【登場人物】
一之瀬莉緒(28) 化粧品会社の広報。ニューイヤーのカウントダウンのため、1人NYを訪れ……。
藤木和哉(29) テレビ局のディレクター。NYのカウントダウンで莉緒と知り合う。
古川渉(29) 食品会社の広報。仕事がらみで莉緒と知り合いに。時々食事に行く仲。
奥村千紘(52) バー「ブパサニワット」のオーナー。
大谷美紀恵(33) 莉緒の上司。

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