お使いのOS・ブラウザでは、本サイトを適切に閲覧できない可能性があります。最新のブラウザをご利用ください。

61話 心の引力


カフェを出ると、「駅まで一緒に行こう」と浩之さんが傘を開いた。
狭い傘に2人で入り、無言のまま歩く。
浩之さんの歩き方はいつもよりゆっくりだ。
まるで、最後の時間を引き延ばすように——。

胸が痛い。切ない。苦しい。
こんなにもつらい別れを乗り越えなきゃいけないのはどうして?
本当の幸せを見つけるためには、この痛みが必要なの?

私はできるだけ浩之さんと距離を取ろうとした。
すると、傘からはみ出しそうになった私の肩を、浩之さんが
「濡れるよ」と引き寄せた。
私の右肩が、浩之さんの胸にぴったりとくっつく。
彼の鼓動が、体温が、匂いのない匂いが、私を惹きつけて放さない。
このまま心まで、彼の体の中に入っていって
ひとつになれたらいいのに……。

駅に着くと、浩之さんは傘をたたんで、ポツリと言った。
「軽井沢に行ったとき……詩織、すごく嬉しそうで、
何度も何度も『素敵』『ありがとう』って言ってくれて。
オレは詩織の笑顔をこれからもずっと見ていたいって思ったんだ。
だけど詩織は、オレとじゃ幸せになれないって思ったんだよな」

気付いたら、私は浩之さんに抱きついていた。
この気持ちは何なんだろう。
ときめきや愛なんて言葉じゃ説明できない。
強い引力が強引に、私を浩之さんのもとへと運んでいってしまう。
天野詩織(29歳)
繊維メーカーの事務職。恋愛に臆病でなかなか一歩を踏み出せない。
堤 浩之(36歳)
営業職。詩織が社内で見かけ、ひと目惚れした相手。
竹下陽向(27歳)
取引先のアパレルメーカーに勤務している。自然に話せて、安らげる相手。
本田叶絵(29歳)
詩織の同僚。明るく活発なタイプで、詩織の背中を押そうとしてくれる。

お役立ち情報[PR]