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55話 ヨリを戻しそう


駅の近くのカフェは、雨宿りをする人たちでいっぱいだった。
運よくあいたカウンター席に、浩之さんと並んで座る。
湯気の立つカフェオレに手をつける間もなく、浩之さんが言った。
「なんでメールも電話も無視するんだよ?」
「……ちゃんと別れたかったから」
「は?」
「変に連絡を取って、ヨリを戻したりして、
同じことを繰り返すのは絶対嫌だったから」
浩之さんは少しだけ沈黙し、ふっとまなざしをゆるめた。
「連絡を取ったら、ヨリを戻しそうだったってことか。
じゃあ、気持ちは残ってるんだろ」
今度は私が沈黙してしまった。

さっき、書店で姿を見かけたとき、胸にこみ上げてきた感情。
あれはきっと愛情だ。
陽向さんといるときには感じることのない気持ち……。
本当は自分でもわかっている。
私はまだ浩之さんを好きなんだって。
だから、どうしても、浩之さんの番号を着信拒否にできなかった。

でも、私は決めたんだ。浩之さんと別れるって。
私を苦しめる人とじゃなく、安心させてくれる人と付き合いたい。
陽向さんなら、私の心を安らかにしてくれる。
それなのに——。
「もう一度やり直そう」
浩之さんにそう言われると、やっぱり心が揺れてしまう。
天野詩織(29歳)
繊維メーカーの事務職。恋愛に臆病でなかなか一歩を踏み出せない。
堤 浩之(36歳)
営業職。詩織が社内で見かけ、ひと目惚れした相手。
竹下陽向(27歳)
取引先のアパレルメーカーに勤務している。自然に話せて、安らげる相手。
本田叶絵(29歳)
詩織の同僚。明るく活発なタイプで、詩織の背中を押そうとしてくれる。

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