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54話 最後にちゃんと


経済書のコーナーで上段の本に手を伸ばす後姿を見て、
鼓動が早まった。
浩之さん——。
心の中で名前をつぶやく。
そのとたん、胸の奥に熱い感情がこみ上げてきた。
名前を呼んで駆け寄りたい。話をしたい。
そんな衝動を抑え、そっとその場を立ち去った。

書店の外はまだ雨が降っている。
しょうがない、濡れて帰ろう。
浩之さんと顔を合わせるわけにはいかない。
もし言葉を交わしたら、あの目で見つめられたら、
私の心はまた揺れてしまうだろう。

ジム用の大きなバッグを頭に載せ、書店を出た。
目の前の信号が赤になった。
びしょ濡れになっちゃうな、と思いながら待っていると、
頭上に傘を差し出された。
驚いて横を見て、また驚いた。
「……浩之さん」

浩之さんは少し怒ったような顔をしていた。
「逃げなくてもいいだろ」
それから、小さな声で搾り出すように言った。
「最後にちゃんと話そう」
天野詩織(29歳)
繊維メーカーの事務職。恋愛に臆病でなかなか一歩を踏み出せない。
堤 浩之(36歳)
営業職。詩織が社内で見かけ、ひと目惚れした相手。
竹下陽向(27歳)
取引先のアパレルメーカーに勤務している。自然に話せて、安らげる相手。
本田叶絵(29歳)
詩織の同僚。明るく活発なタイプで、詩織の背中を押そうとしてくれる。

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