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45話 小さな優しさ


浩之さんからのメールは、たった1行。『今日の夜どうしてる?』
会いたい、と強く思った。
仲直りするつもりなのか、別れ話をするつもりなのか、
浩之さんの真意はわからないけれど、
とにかく会って話をしたい。
だけど、今日はタイミングが悪い。
『今日は仕事が多いの。たぶん残業になると思う』と断ると、
『仕事が終わってから、うちに来れば?』という返事がきた。

浩之さんの部屋に着いたのは、夜の10時半を過ぎてからだった。
「ずい分、遅かったな」
久しぶりに会った浩之さんは、いきなり不機嫌そうに言った。
待たされてイライラしていたんだろう。
「メシ、食った?」
「ううん」
「オレ、先に食ったから、コンビニでなんか買ってくれば?」
『一緒に買いに行こう』ではなく『買ってくれば』。
前回、駅まで迎えに来るのを面倒だと言ったのと一緒だ。
あのとき感じた絶望が、一瞬だけ頭をかすめた。
私は「いい。今日は食べない」と言って、ソファに座った。
倒れて以来、食欲がないし、今からコンビニに行く気力もない。

すると、浩之さんが冷蔵庫から、缶ビールとチーズを出してきた。
「カップラーメンならあるけど、食うか?」
この人はいつもそう。ガッカリさせた後に小さな優しさをくれる。
そして私は、こんな小さな幸せで胸がいっぱいになってしまう。
天野詩織(29歳)
繊維メーカーの事務職。恋愛に臆病でなかなか一歩を踏み出せない。
堤 浩之(36歳)
営業職。詩織が社内で見かけ、ひと目惚れした相手。
竹下陽向(27歳)
取引先のアパレルメーカーに勤務している。自然に話せて、安らげる相手。
本田叶絵(29歳)
詩織の同僚。明るく活発なタイプで、詩織の背中を押そうとしてくれる。

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