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15話 これが本当の最後かも


浩之さんと私はお互いの自己紹介をしあった。
「今は営業2課だけど、もうすぐ転職予定なんだ」
フェイスブックや叶絵からの情報で知っていたけれど、
「そうなんですか」と初めて聞くふりをした。
「じゃあ、こうして社食で会うこともなくなっちゃうんですね」
「うん。残念だけど」
そこで、会話が途切れた。

私はカラアゲの下敷きになっていたキャベツの千切りを、
ゆっくりと口に運び続けた。
食欲なんてまったくない。
でも食事を続けていなければ、
今、こうして浩之さんの隣に座っていることは不自然だから。
これが最後になるかもしれない。
だからこそ、少しでも長く一緒にいたい。

そんな私の思いと裏腹に、浩之さんは箸を置いた。
見ると、彼の食器はすべてカラになっていた。
営業職の人は食事が速いというのは本当らしい。
このまま彼は席を立ち、私たちが会うことはもう二度とないんだろう。

ところが、浩之さんは席を立たずに、私のほうに体を向けた。
「社食ではもう会えないけど、よかったらふつうに食事に行かない?」
——……嘘みたい。
ずっと憧れて見ているだけだった人が、食事に誘ってくれるなんて……。
天野詩織(29歳)
繊維メーカーの事務職。恋愛に臆病でなかなか一歩を踏み出せない。
堤 浩之(36歳)
営業職。詩織が社内で見かけ、ひと目惚れした相手。
竹下陽向(27歳)
取引先のアパレルメーカーに勤務している。自然に話せて、安らげる相手。
本田叶絵(29歳)
詩織の同僚。明るく活発なタイプで、詩織の背中を押そうとしてくれる。

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