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14話 正直言うと……


私が黙っていると、浩之さんが口を開いた。
「しょうゆ、取ってもらえますか?」
「あ、はい」
しょうゆに手を伸ばしたとき、
「……って、オレが話しかけたんだよね?」
と言われて、動きを止めた。

「食堂で会ったって言われて、考えたんだ。
オレ、営業なんで外で昼飯を食べることが多いから、
最近いつ社食で食べたかな? って」
浩之さんは、周囲に聞こえないように配慮しているのか、
低い声でポツポツと話し続けた。
「正直、キミの顔は覚えていなかったんだけど。
食堂で接点があったといえば、
しょうゆを取ってもらった人くらいかなぁと思って」

私の顔を覚えていなくても、接点を思い出そうとしてくれた——
それだけで、すごくうれしい。

さらに、浩之さんは続けた。
「また会いたいなと思って、あれから毎日、社食に来てたんだ」
驚いた私は、顔を上げて浩之さんを見た。
浩之さんはやさしそうなほほ笑みを浮かべて、私を見ている。
それは、浩之さんに心を奪われた瞬間に見たのと同じ、
無防備にも、無邪気にも見える笑顔だった。
天野詩織(29歳)
繊維メーカーの事務職。恋愛に臆病でなかなか一歩を踏み出せない。
堤 浩之(36歳)
営業職。詩織が社内で見かけ、ひと目惚れした相手。
竹下陽向(27歳)
取引先のアパレルメーカーに勤務している。自然に話せて、安らげる相手。
本田叶絵(29歳)
詩織の同僚。明るく活発なタイプで、詩織の背中を押そうとしてくれる。

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