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27話 言葉が出ない


好きな人の姿は遠くからでもわかる。
たとえ、はっきり顔が見分けられなくても、
「あれ!?」と思って目をやると、その人がいる。

向こうから透が歩いてきた時もそうだった。
酔って見知らぬ年上の人と楽しそうに話しながら、
こちらへ近づいてきた。
そうしたら、彼も気づかないわけがない。
わたしも一応、恋人だから。
そう。透は5メートルぐらい前で
ハッとした顔をして……何もいわずに通り過ぎた。
たぶん、動揺していたんだと思う。
その後の彼の目は決して笑っていなかったから。

わたしも「何か言った方がいいかな?」と思いつつ、
触れられるほどなのに、言葉が出なかった。
2人は無言のまま、すれ違った。

透が完全に立ち去ってから、
立花さんは、やさしくわたしに質問した。
「今通り過ぎた人、知り合い?」
「……いえ、ぜんぜん。知らない人です」

この、言葉に詰まった一瞬の沈黙が、
わたしにはひどく、悲しいものに思えた。
海棠瑞希(27)
オフィス家具メーカーの営業事務職。趣味はフラワーアレンジメント。
山野 透(29)
大手商社のシステム部に勤務。上司が起業した会社に転職を決意。
立花貴史(31)
医療器具販売会社の経営陣。かなりの美形。
白石由美(25)
瑞希の後輩で同じ会社の営業事務職。
赤羽美也子(27)
フラワーアレンジメントの教室で知り合った友人。
大島洋幸(38)
瑞希の課の上司。瑞希の働きぶりを頼もしく思っている。
山野美代子(56)
透の母。今回の透の起業は寝耳に水で非常にうろたえている。

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