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1話 春の花影


街頭の灯りにほんのりと照らされながら、
わたしは透の家へと急いでいた。
歩くたび、シャッ、シャッ、シャッと紙のこすれる音。
左手に持つ花束の包装紙が、体とすれる音だ。
そして右手にはデパ地下でチョイスした、
3種類のデリが入った箱を提げている。

ドアの前に立ち、インターフォンを鳴らして待つ。
1秒、2秒、3秒……5秒待っても出ないので、
バックから合鍵を取り出して、中に入った。

少し緊張するけれど、この瞬間がとっても好き。
合鍵を使って、留守中の彼の部屋に入るなんて、
いかにも親密なお付き合いをしている証拠みたいで、
本当にドキドキする。

「こんばんは。入るね」
一瞬「お、瑞希」と透の声が聞こえた気がしたが、
それは空耳で返事がない。灯りをつけると、
テーブルにはコーヒーを飲み干した後のマグカップ。
朝、急いで部屋を出ただろう透の気配が残っていた。

そのカップを片付けると、棚から小さな花かごを出し、
持ってきた白いジャスミンと、アイビーをいけ始める。
部屋にジャスミンの涼やかな香りが広がると、
玄関でがちゃりと、鍵の回る音がした。
海棠瑞希(27)
オフィス家具メーカーの営業事務職。趣味はフラワーアレンジメント。
山野 透(29)
大手商社のシステム部に勤務。上司が起業した会社に転職を決意。
立花貴史(31)
医療器具販売会社の経営陣。かなりの美形。
白石由美(25)
瑞希の後輩で同じ会社の営業事務職。
赤羽美也子(27)
フラワーアレンジメントの教室で知り合った友人。
大島洋幸(38)
瑞希の課の上司。瑞希の働きぶりを頼もしく思っている。
山野美代子(56)
透の母。今回の透の起業は寝耳に水で非常にうろたえている。

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