お使いのOS・ブラウザでは、本サイトを適切に閲覧できない可能性があります。最新のブラウザをご利用ください。

55話 彼の心がわからない


和哉は私を抱きしめるでもなく、キスをするでもなく、
再び部屋のドアを閉ざしてしまった。
不安だけが残った。
心のドアまで、閉ざされてしまったような気がして——。

ぐちゃぐちゃの心をすっきりさせたくて、バスタブにお湯をはった。
半身浴がやっとできるくらいの浅い湯に、ラベンダーのアロマをたらす。
温かい湯に体をあずけると、安堵のため息がもれた。
さっきまでの和哉とのやりとりが頭に浮かぶ。
『できるだけ、そうするよ』
あれは、彼なりの譲歩なのだろう。
だけど、面倒そうな口ぶり、私を避けるような態度。
冷たさと優しさが混在するから、彼の心がわからなくなる。

リビングに戻ると、ソファに和哉が座っていた。
「心配かけて、悪かった」ひとり言のような小さな声。
それを聞いて、ホッとした。
私が言った「思いやり」の意味を、わかってくれたんだと思う。
私は和哉の横に座り、なにも言わずにほほ笑んだ。
すると彼は、タオルを巻いたままの私の頭を胸にひきよせた。

それ以来、和哉の外泊はなかった。
ただし、仕事は忙しくなったようで、週末も出勤することが増えた。
幸せだったり、寂しかったり、そんな日々をくり返すうちに、
11月になった。
【登場人物】
一之瀬莉緒(28) 化粧品会社の広報。ニューイヤーのカウントダウンのため、1人NYを訪れ……。
藤木和哉(29) テレビ局のディレクター。NYのカウントダウンで莉緒と知り合う。
古川渉(29) 食品会社の広報。仕事がらみで莉緒と知り合いに。時々食事に行く仲。
奥村千紘(52) バー「ブパサニワット」のオーナー。
大谷美紀恵(33) 莉緒の上司。

お役立ち情報[PR]