お使いのOS・ブラウザでは、本サイトを適切に閲覧できない可能性があります。最新のブラウザをご利用ください。

45話 男の価値、女の価値


あれから古川さんは、ときどきメールをくれるようになった。
『そろそろ落ち着いた?
愚痴を言いたいときとか、飲みたくなったときはいつでも付き合うよ』
古川さんは、いつも私に優しい言葉をくれる。

「この人を好きになれたら、幸せになれると思うのに」
私がひとり言のように言うと、
千紘さんは、皮肉を言うときの薄笑いを唇に浮かべた。
「アンタを幸せにするって言ったって男ね?
男の価値は行動で決まるのよ。何を言ってくれたか、じゃない」
行動——藤木さんが、タクシーで駆けつけてくれたことを思い出す。
「女の価値も、行動で決まるのよ」と千紘さんは続けた。
『アンタは何もしなかった』そう責められている気がする。
「アタシが若かったころ……。ある小説を読んで、魂が震えてね。
その小説家が地方で講演することを知って、泊まるホテルを調べたの。
そしてドアをノックして、言った。抱いてください——って」
私は驚いた。「拒否されるとは、思わなかったんですか?」
「人を好きになることに、臆病じゃなかったから。
言わないで後悔するより、一生に一度、軽蔑されてもいい、
拒否されてもいい、想いをぶつけたかった。
あの夜のことを思いだすだけで、アタシは生きていけるのよ」

胸を打たれた。確かに私は、臆病だったのかもしれない。
もっと想いを口にすればよかった。寂しいとか、
連絡がこなくて怒っているとか、会いたいとか、全部。
——今からでも伝えたい。本当に、本当に、大好きだったよって。
【登場人物】
一之瀬莉緒(28) 化粧品会社の広報。ニューイヤーのカウントダウンのため、1人NYを訪れ……。
藤木和哉(29) テレビ局のディレクター。NYのカウントダウンで莉緒と知り合う。
古川渉(29) 食品会社の広報。仕事がらみで莉緒と知り合いに。時々食事に行く仲。
奥村千紘(52) バー「ブパサニワット」のオーナー。
大谷美紀恵(33) 莉緒の上司。

お役立ち情報[PR]