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最終話 静かな旅立ち


わたしの違和感をよそに、篠田さんは話し続ける。
「菜々子ちゃんだけじゃなく、おそらくみんな、
25歳ぐらいまでの縁が、一番真剣だと思う。
でもたぶんその後に結ぶ関係は、どこかが冷めた付き合いになる。
だけどぼくは、それでも菜々子ちゃんと一緒にいたい」

……もしかすると篠田さんも、つらい別れをしたのかも。
あんなに大人に見えて、本当はとても怖がりなのかもしれない。

「お付き合いの申し出は受けます。すごくうれしい。
でも……篠田さんは前に付き合った人の代わりじゃない。
どっちがどうとか考えるのは、不健康だと思う」
わたしの言葉に、篠田さんは自信なさげに何かを言おうとした。
けれど今は、彼の言葉をさえぎる。

「わたしは真剣だよ。知り合ってまだ日が浅いから、
どんな気持ちも、今ひとつ不確かだけど。
でもそれは冷めているからじゃない」

カップを持とうとしたわたしの手を篠田さんがそっと握る。
「ぼくは臆病だね。でも奈々子ちゃんとなら大丈夫だ。
今、確かにそう思えたよ」
わたしたちのこれからはわからない。
おたがい少しぎこちないまま、それでもたがいの手のひらを温めながら、
新しい年に新しい関係が始まっていく。

(おわり)
水波菜々子(27)
学生時代に出会った拓海と遠距離恋愛中。仕事は携帯サイトの企画営業。
野田拓海(27)
地方に本社を持つ精密機械の部品製造会社勤務。本社に抜擢され転勤。
高村直樹(35)
菜々子の上司にあたる、営業課長。仕事にはとても厳しいが……。
小牧美恵子(24)
同業他社から菜々子の会社に転職してきた新人。
篠田修治(28)
大手精密機器会社の研究所に勤務。趣味はアート鑑賞。

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