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43話 帰り道に


シートに腰を下ろすと、離れていく拓海の町を窓から眺めた。
こんなときはできれば振り返らず、
進行方向を眺めた方がよいのだろう。

でもわたしは拓海にも、拓海と過ごした日々にも、
あの町にも、まだまだ思いを残している。
冷たい列車の窓ガラスに額を押し付け、
遠ざかっていく風景を、身を乗り出さんばかりに眺めた。
寂しい。心が寂しいだけでなく、
大学時代から、社会人としてなんとかやってきた、
今までの大切な時間をすべて失ったようだ。

残っているのは、ひとりぼっちの今と不確かな未来だけ。

途中、ローカルの特急から中央線の快速に乗り換えると、
寂しさと憂鬱はさらに増すばかりだった。
わたしは耐え切れずに、
コートのポケットから携帯を取り出した。
「彼と別れてきた。今、中央快速で帰るところ」
こんなときに、篠田さんにメールするなんて。
なんだか、卑怯な気がする。
でも、返事はすぐきた。
「東京駅まで迎えに行くよ」
「だって。そんなの悪いよ」
そうだ。篠田さんに来てもらうわけにはいかない。
水波菜々子(27)
学生時代に出会った拓海と遠距離恋愛中。仕事は携帯サイトの企画営業。
野田拓海(27)
地方に本社を持つ精密機械の部品製造会社勤務。本社に抜擢され転勤。
高村直樹(35)
菜々子の上司にあたる、営業課長。仕事にはとても厳しいが……。
小牧美恵子(24)
同業他社から菜々子の会社に転職してきた新人。
篠田修治(28)
大手精密機器会社の研究所に勤務。趣味はアート鑑賞。

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