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40話 ずるいよ


拓海の、怒っているような泣いているような笑顔。
この顔も、久しぶりに見る。
「ふたりでこんなに正直に話したの、すごく久しぶりかもね」
「そうだな。おれたちもっと、言いたいことを言えばよかった」
「うん……でも遠距離だもん。むずかしかったよね」
わたしはがんばって笑って言ったけど、
拓海は「ごめんな」と言うと、
テーブルにあった伝票をつかみ、足早にレジへ歩いていった。

カフェを出て車に乗り込んでも、拓海はしばらく発進しなかった。
「どうしたの?」と聞くと、手のひらで目を覆った。
「ごめん。今運転すると、たぶん事故る」
かすかに震える拓海は、おそらく泣いているんだろう。

ずるいなあ。今日の拓海はまったくずるい。
ふられたのは、わたしの方なんだよ。
わかってる?
そう思うと心の底から、意地悪な気持ちがこみ上げてきた。
素直に、泣かしてなんかやるもんか。

「ねえ、他にできた好きな人って、どんな人?」
わたしの問いに、震えていた拓海の肩が静かになる。
しばらく間があって、目を覆ったままの拓海ははゆっくり語りだした。
「いい子だよ。素直で、思いやりがあって、
おれだけじゃなく、まわりの人にもやさしいし。
でも奈々子の方がきれいだし……きっと奈々子の方が好きだった」
水波菜々子(27)
学生時代に出会った拓海と遠距離恋愛中。仕事は携帯サイトの企画営業。
野田拓海(27)
地方に本社を持つ精密機械の部品製造会社勤務。本社に抜擢され転勤。
高村直樹(35)
菜々子の上司にあたる、営業課長。仕事にはとても厳しいが……。
小牧美恵子(24)
同業他社から菜々子の会社に転職してきた新人。
篠田修治(28)
大手精密機器会社の研究所に勤務。趣味はアート鑑賞。

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