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38話 ごめんね


それはカフェの併設された、小さなギャラリーだった。
訪れる人も少なく、ひっそりと清潔なたたずまいで、
だから逆に、恋人同士が2人っきりになれてしまう、
心ときめく空間だった。

「あれ、この絵ってどこかで見たことある」
「かなりキャリアの長いイラストレーターさんだね。
……すごいな。ぼくらが生まれる前からお仕事してる」
「本当だ。すごいね」
いつかわたしたちも、誰かに言われたい。
“わたしたちの誕生前からお付き合いしてたんですね”って。

でもふたりはその、ていねいで心温まる絵を見ながら、
ずっと無言で過ごした。
前に会った秋からいろいろなことがあったはずなのに、
拓海に話せることは意外に少なく、
そして彼がわかるように語る自信もほとんどなかった。
「隣のカフェでコーヒーでも飲もうか」
わたしは無言でうなづき、
ふたりでチーズケーキのセットを頼んだ。
拓海はうつむいて、たまにわたしの顔を見る。
そんな彼と目が合うと、たまらなく胸が痛んだ。

「ごめんね……ぼく、他に好きな人ができた」
ああ、とうとう言われてしまった。
拓海はやさしくて誠実だから、言わずにはいられないよね。
水波菜々子(27)
学生時代に出会った拓海と遠距離恋愛中。仕事は携帯サイトの企画営業。
野田拓海(27)
地方に本社を持つ精密機械の部品製造会社勤務。本社に抜擢され転勤。
高村直樹(35)
菜々子の上司にあたる、営業課長。仕事にはとても厳しいが……。
小牧美恵子(24)
同業他社から菜々子の会社に転職してきた新人。
篠田修治(28)
大手精密機器会社の研究所に勤務。趣味はアート鑑賞。

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