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33話 またお願いね


美術館を出た後は、心身ともに限界だった。
でもそれはけっしてイヤな疲れじゃない。
館を出た後も、言葉にしがたい高揚感に包まれている。
「疲れてない? 甘いものでも食べていこうか」
「賛成! もうへとへとなの」
町に吹く冷たい木枯らしも、火照った体に心地よい。
近くのカフェでは迷うことなく、大きなモンブランに、
たっぷりのアイスクリームが添えられたスイーツを頼む。
篠田さんもガトーショコラをオーダーしていた。

「こういう経験初めてだから上手く言えないけれど、
とっても楽しかった。胸がどきどきしちゃった」
「そう言ってもらえると、誘った甲斐あるな。
ぜんぜん受けつけない人もいるからね」
「わたしはハマりそう。瞬きするたび、さっきの絵が、
もう一度まぶたの裏に見える気がするくらい」
篠田さんは「それはよかった」とにっこり笑う。
それからふたり美術館で買った分厚いカタログ本を取り出し、
お冷を2杯もおかわりするまで、今日見た絵の話が続いた。

その後にわたしたちは、地下鉄の駅まで戻ると、
別々に帰ることにした。
「おもしろそうな美術展があったら、また誘ってもらえます?」
「じゃあ、何かあったらメールするから」
食事をするわけでもない、昼間に絵を見て、お茶して帰る。
これなら別にデートじゃない。大丈夫だよね、拓海……。
水波菜々子(27)
学生時代に出会った拓海と遠距離恋愛中。仕事は携帯サイトの企画営業。
野田拓海(27)
地方に本社を持つ精密機械の部品製造会社勤務。本社に抜擢され転勤。
高村直樹(35)
菜々子の上司にあたる、営業課長。仕事にはとても厳しいが……。
小牧美恵子(24)
同業他社から菜々子の会社に転職してきた新人。
篠田修治(28)
大手精密機器会社の研究所に勤務。趣味はアート鑑賞。

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