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25話 後退するもの


「あー、疲れた」
仕事から帰って玄関のドアを開けるとき
「ただいま」の代わりに、思わず心の声がもれてしまった。
でも今日の疲れは悪くない。
午後からの打ち合わせ、
クライアントと高村課長の予算や仕様を巡る調整では、
双方のむき出しの本音が炸裂した。
「まあ、本番がスタートしたらあんなもんだよ。
おたがいギリギリだから、どうしてもシビアになるよな」
終わった後、電車の中で課長も思わず苦笑していた。

そんな課長の態度は、告白前とほとんど変わっていない。
ただ以前より心持ち、親しみというか、
物慣れた雰囲気はにじみ出ていると思う。
でもそのニュアンスが恋かどうかは、判断がつかない。
どちらにしろ……もう決着はついた問題だ。

それにひきかえ拓海へのメールは
日に日に内容が、挨拶程度の貧しいものになっていった。
別に彼への気持ちが、冷めたわけじゃない。
逆に彼の写真には毎日笑いかけ、相談したりお願いしたり、
時には祈ることさえしているのに。
でも肝心の本物の拓海には、言うことがほとんどない。
今日も「そちらは寒くない?」程度のメールしか打てなかった。
彼からも「東京とはくらべものにならない寒さだよ」
そんな程度の言葉しか帰ってこない。
水波菜々子(27)
学生時代に出会った拓海と遠距離恋愛中。仕事は携帯サイトの企画営業。
野田拓海(27)
地方に本社を持つ精密機械の部品製造会社勤務。本社に抜擢され転勤。
高村直樹(35)
菜々子の上司にあたる、営業課長。仕事にはとても厳しいが……。
小牧美恵子(24)
同業他社から菜々子の会社に転職してきた新人。
篠田修治(28)
大手精密機器会社の研究所に勤務。趣味はアート鑑賞。

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