お使いのOS・ブラウザでは、本サイトを適切に閲覧できない可能性があります。最新のブラウザをご利用ください。

21話 課長のつぶやき


高村課長はその後ずっと、下を向いて独り言のように続けた。

「オレたちの関係も、今日までは非日常だが、
明日からどんどん普通の関係になる。
やがてオレはおまえの若さと可能性を妬み、
おまえはオレの家庭と経験をうらやむ。
2人ともが、おたがいを苦しめるようになるだけだ」

課長は後ろ手を組んで、靴のつま先で、
足元に落ちている吸殻をぐりぐりとつぶしていた。
まるでスネている小学生みたいだ。
「わかりました。バカなこと言ってすみません……」
不思議だ。心のどこかでほっとしてる。
なんだろう、これ。
わたしってただの酔っ払い?

「あー、でももったいない!
オレは今日、水波を断ったことを、たぶん一生後悔するよ。
それできっと10年でも20年でも覚えていて、
自信を失くしたときなんかに、こっそりと思い出すんだ」

課長はそう言って、また悲しそうな顔で笑った。
それからふたりは、地下鉄の駅についても、
同じ車両に乗ってもずっと何も話さなかった。
だけど最後、わたしが先に降りるとき、
高村課長はまっすぐ前を見たまま「ありがとう」とつぶやいた。
水波菜々子(27)
学生時代に出会った拓海と遠距離恋愛中。仕事は携帯サイトの企画営業。
野田拓海(27)
地方に本社を持つ精密機械の部品製造会社勤務。本社に抜擢され転勤。
高村直樹(35)
菜々子の上司にあたる、営業課長。仕事にはとても厳しいが……。
小牧美恵子(24)
同業他社から菜々子の会社に転職してきた新人。
篠田修治(28)
大手精密機器会社の研究所に勤務。趣味はアート鑑賞。

お役立ち情報[PR]