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5話 空っぽの心


恋の不幸は、人を少しずつ強くする。
わたしは転勤した拓海のことを考えないようにするため、
仕事に励み成果をあげることで、寂しさを拭おうとした。
それはこうして、コースターの落ちる恐怖を、
悲鳴でなんとか逃がそうとする試みに似ていたかもしれない。
でも考えてみれば、彼が転勤した後の方がかえって
「きちんと会おう」とデートにも連絡にも気合いが入った。
離れてからの方が「恋してる」って実感できてる。きっと。

減速したコースターにガクンと一度揺すぶられた後、
わたしも拓海も目に涙を浮かべながら、笑ってシートをたった。
そうだね。笑顔のうちに、遊園地を後にしよう。

車の助手席では必ず、運転する拓海の横顔をじろじろ見てしまう。
「やっぱり、拓海ってきれいな顔してるよね」
「うわー、やめろ。なんて返事のしづらいことを言うんだよ。
それより次、なんとしてもクリスマス付近には会いたいな」
「うん。絶対スケジュール確保しようね」
駅に着く頃にはもう影が長い。改札口での別れ際、
寂しくなるから、ただ「またね」と手を振った。

でも列車に乗り込むと、とたんに心が空っぽになる。
これからずっと、ひとりの時間が続くのだ。
……誰だってデートが終わって帰るときは寂しいのよ。
……近くに住んでいたって、どうせ忙しくて会えないじゃない。
わたしは自分に何度も言い聞かせて、
列車の窓に額をつけてギュッと目をつぶった。
水波菜々子(27)
学生時代に出会った拓海と遠距離恋愛中。仕事は携帯サイトの企画営業。
野田拓海(27)
地方に本社を持つ精密機械の部品製造会社勤務。本社に抜擢され転勤。
高村直樹(35)
菜々子の上司にあたる、営業課長。仕事にはとても厳しいが……。
小牧美恵子(24)
同業他社から菜々子の会社に転職してきた新人。
篠田修治(28)
大手精密機器会社の研究所に勤務。趣味はアート鑑賞。

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