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3話 ふたりきりの贅沢


うどんを食べ終えた後、わたしたちを乗せた青い車は
山の上を目指してカラマツの林を駆け上がった。
目指すは地元の有名旅館。
仲居さんから丁寧な施設の案内を聞き、
「どうぞ、ごゆっくり」と挨拶されて2人きりになると、
わたしたちはクスクスと笑いながらお風呂場へと急いだ。

「よかった。ちゃんと間に合ったね」
「うん。ぼくはこの景色を菜々子と見たかったんだ」
実はこの部屋には、貸切の露天風呂がある。
わたしたち、もう社会人もある程度長いし、
たまには大人の遊びをしようと、ふたりして奮発したのだ。
湯船からは夕焼けで真っ赤に染まった富士山が、
恐ろしく雄大に美しい。ふたりしばらく無言で眺めた。

「あ、ちょっとヤダ……」
拓海がちゃぷりとお湯の音をたてて、
わたしを抱きしめキスをした。
最上階の部屋だから風が強くて、風音が耳にゴーッと響く。
「もう拓海ったら、せっかくの夕焼けが見えないよ」
裸の胸を軽く叩くと、彼は無言でわたしの髪をなでた。

付き合いが長いせいか、こんなことをしても、
ごく自然に振舞えて、あんまり恥ずかしい気がしない。
それがうれしいのか、残念なのかもよくわからない。
でも今日は確かに、ふたりの大事な思い出が一個増えた。
水波菜々子(27)
学生時代に出会った拓海と遠距離恋愛中。仕事は携帯サイトの企画営業。
野田拓海(27)
地方に本社を持つ精密機械の部品製造会社勤務。本社に抜擢され転勤。
高村直樹(35)
菜々子の上司にあたる、営業課長。仕事にはとても厳しいが……。
小牧美恵子(24)
同業他社から菜々子の会社に転職してきた新人。
篠田修治(28)
大手精密機器会社の研究所に勤務。趣味はアート鑑賞。

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