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1話 約束の地で


JR中央線を降りると、急ぎ足で私鉄の特急に乗り換える。
大丈夫だ。まだ間に合う。
ホームには彼の住む町へ向かう列車が、
のどかな様子で長々とホームに横たわっていた。
シルバーウィークのせいか、人も多い。
しかし見るたび思うけど、この特急の外装はすごすぎる。
ゆるキャラっていうの?
笑っている富士山や怒っている富士山、
三段に重なったり、恋人みたいに寄り添う富士山が、
車体全体に、らくがきみたいに散りばめられている。
最初に見たときは、乗るのをためらったほどだ。

でも列車が走り出し、次第に富士山が近づいてくると、
こんな絵をあちこちに描く気持ちがなんとなくわかってくる。
近くで見る富士山の、その圧倒的な存在感。
堂々として立派で美しく、やさしげで慕わしい。
こんなすごいものに見守られながら、
拓海は毎日、暮らしているんだな。
やがて列車は彼の住む町に着き、
わたしは素朴でひっそりとした改札を小走りで駆け抜けた。

駅前のロータリーには見慣れたブルーのヴィッツ。
近づくとドアが小さく開いた。
「菜々子、おつかれさま」
車に乗り込むと、メタルフレームをかけた、
拓海のおだやかな笑顔が飛び込んできた。
水波菜々子(27)
学生時代に出会った拓海と遠距離恋愛中。仕事は携帯サイトの企画営業。
野田拓海(27)
地方に本社を持つ精密機械の部品製造会社勤務。本社に抜擢され転勤。
高村直樹(35)
菜々子の上司にあたる、営業課長。仕事にはとても厳しいが……。
小牧美恵子(24)
同業他社から菜々子の会社に転職してきた新人。
篠田修治(28)
大手精密機器会社の研究所に勤務。趣味はアート鑑賞。

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