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35話 触れあう時間


薄闇の中、お互いを探りあうように、体を重ねた。
藤木さんの髪、肩、腕、指、声、すべてが愛おしい。

月の光が窓から差しこむと、室内が少し明るくなった。
藤木さんの腕枕に抱かれ、余韻にひたる。
壁に映画のポスターが貼ってあることに気づいた。
ショーシャンクの空に、ライフ・イズ・ビューティフル、
アイ・アム・サム——。
「泣ける映画ばかりですね。藤木さん、映画を見て泣くの?」
「うん。映画でしか、泣かないかもしれないな」
「現実では泣けないってこと?」
「泣けないね。現実の方が、他人事みたいに感じられる」
今、私とこうしていることも、彼には他人事なのだろうか。
ふいに、藤木さんは腕枕を外し、寝返りを打った。
拒絶されたような寂しさが、私の胸をつらぬく。

彼はきっと、心にたくさんの鎧をまとっている。
孤独にたえられるように、強く生きていけるように、つけた鎧。
それが邪魔をして、優しさも、愛情も、あなたの心には届かない。
私はずっと片想いなのかも——。
そう思ったとき、藤木さんの手が、私の手に触れた。
そして、そのまま、手をつないだ。
少しは彼に想われている——そんな安心感に包まれて、眠りについた。

不思議なことだけど、キスよりも、抱き合ったことよりも、腕枕よりも、
手をつないでくれたことに小さな愛を感じた。
【登場人物】
一之瀬莉緒(28) 化粧品会社の広報。ニューイヤーのカウントダウンのため、1人NYを訪れ……。
藤木和哉(29) テレビ局のディレクター。NYのカウントダウンで莉緒と知り合う。
古川渉(29) 食品会社の広報。仕事がらみで莉緒と知り合いに。時々食事に行く仲。
奥村千紘(52) バー「ブパサニワット」のオーナー。
大谷美紀恵(33) 莉緒の上司。

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