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木々を揺らす風-10

麻理さんはもう妊娠4カ月で、子どもは産むしかない。
わたしは、潮と別れることになるのだろう。

大学の頃の数々のデート。
一緒に暮らし始めて、最初はケンカばかりだったこと。
夜中に人の気配や大きな音がした時、彼がそばにいる安心感。
そして2人で暮らす困難を、1つずつ解決していく喜び。

いろいろな思い出は鮮やかに美し過ぎて、わたしの心を鬼にする。
「あなたの妊娠はあなたの問題で、わたしには関係ありません」

いい切ったとたんに湧き出す、小さな命への罪悪感。
麻理という女性は「ひどい」と細くいうと、そのまま黙った。

そこへ潮が帰ってきた。玄関先にある傘で全てを察したのだろう。
大またに早足でこちらへやってきた。


「麻理、今日のところは帰ってくれ」
潮は彼女のヒジをつかむと、半ば強引に椅子から立たせる。

「ねえ、もうお母さん感づいてるみたい。どうしたらいい?
 潮だって、パパに訴えられちゃうかもしれないんだよ」

潮は彼女の顔を見もせず、かわりに携帯でタクシー会社に連絡し、
「ちょっと彼女を送ってくる」といって部屋を出ていった。

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