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37話 俺を信じて


「そうだよ、占い師さんが今は仕事のときだから恋愛は忘れなさいって」
宗田くんは、うつむいたままだった。
私は歩きはじめた。後ろから、宗田くんがついてきているのがわかる。

地下鉄への階段の、一段目を下りたときだった。
不意に後ろから抱きすくめられた。私は驚いて固まった。
宗田くんの握ったイチゴシェイクの甘い匂いが、鼻先をかすめる。
「宗田くん?」と声を上げると、腕の力は一層強くなった。
彼の指先が、わずかに震えていた。
「占いじゃなくて、俺を信じてほしい。あのときも、清美ちゃんだけは、
俺が逆上がりできるって信じてくれた。もう一度だけ、俺を信じて」
宗田くんへの恋愛感情は忘れたはずなのに、ドキドキしていた。
ようやく「もう、やめてよ」と茶化すように腕をといた。
見上げた宗田くんの顔は、街灯の光を背負っているせいで
表情がわからない。
逃げるように階段を下りた。自分のハイヒールの音だけが響いていた。
宗田くんが追ってくる気配はなかった。

電車に乗ってからも、動悸がおさまらなかった。
私のすぐ後ろにいた宗田くんが、別人のように思えた。
元気いっぱいで、なんでも「できる」と言ってしまう彼とは違う。
私を「清美ちゃん」と呼び、震えるほど緊張していた彼。
私は今まで、彼のなにを見ていたのだろう。
本当は、なにも見ていなかったのかもしれない。

気づくと足は、遼子の店へと向かっていた。

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