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34話 自主残業


その日の夜、あきちゃんが催してくれた飲み会へ行った。
そこにはやはり、宗田くんの姿はなかった。
「冷たいですよね、宗田くん。
あんなにお世話になった清美さんのお祝いなのに」
あきちゃんが冗談めかして言うのにも、返事に困ってしまった。
本当は、宗田くんももう、私と関わりをもちたくないのかもしれない。

店を出てひとりで地下鉄の駅までの道を歩いた。
その途中、ファーストフード店の中に、見覚えのある顔があった。
宗田くんだ。ノートパソコンを開いてしかめ面をしている。
胸の奥が、少しだけ痛んだ。「がんばってるじゃん」と声をかけたかった。
でも、宗田くんは私の助けは必要としていない。
私だって、未練のあるようなことをしてはいけない。
彼の姿など見なかったかのように、再び前を向き、歩き出した。

でもそれから毎日、その店で自主残業する宗田くんを見た。
宗田くんの表情は、いつも真剣そのものだった。
何時までそこで仕事をしているのかわからない。
でも翌日、いつも宗田くんは一番にオフィスに来て、
新入社員の仕事でもある掃除や植物の手入れをしていた。
泣き言も、夜遅くまで仕事に励んでいる素振りも、
オフィスでは一切見せなかった。課長が心配になって宗田くんを
何度も呼び出すほどだ。でも、私は知っていた。彼の努力を。

締め切り前日の木曜の夜、やはりファーストフード店に宗田くんはいた。
私はついに店の前で足を止めた。

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