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18話 もし、断られても


藤木さんはいつも通り、クールなままだった。
たくさん飲んでいたはずなのに、
シラフのように平然とした顔で、ゆっくりと歩いている。
私の歩調にあわせてくれているのだろう。
「あの……」と私は切り出した。
「もうちょっと、飲みませんか?」
断られたら……と思うと、緊張で胃が痛くなる。
でも、断られる怖さよりも、
このまま二度と会えなくなることのほうが嫌。

藤木さんは、ネイビーのコートのそでをまくって、時計を見た。
そして、「近くに、いいバーがあるよ」と言った。

駅に向かうみんなになにも言わず、私たちはそっと路地へと紛れ込んだ。
心臓がずっと、トクトクと音をたてている。
嬉しさとときめきで胸がいっぱいで、息をすることさえ苦しい。
2度、3度と角を曲がり、しばらく歩いた。
小さなビルの地下へ下り、藤木さんが扉をあけた。
看板もなにもない古びた木の扉が、ギィと音を立てる。
「藤木さんの隠れ家ですか?」
「まあね」
こんな風に、彼の心の扉もあけられたらいいのに。
ふいに、そう思ってしまったけれど、
それは望みすぎだと思い直した。
今はただ、こうして一緒にいられるだけでいい。
【登場人物】
一之瀬莉緒(28) 化粧品会社の広報。ニューイヤーのカウントダウンのため、1人NYを訪れ……。
藤木和哉(29) テレビ局のディレクター。NYのカウントダウンで莉緒と知り合う。
古川渉(29) 食品会社の広報。仕事がらみで莉緒と知り合いに。時々食事に行く仲。
奥村千紘(52) バー「ブパサニワット」のオーナー。
大谷美紀恵(33) 莉緒の上司。

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