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37話 ときめきのために


ちょうどそのとき、ウェイターが皿を運んできた。
今朝、相模湾でとれたばかりというスズキのカルパッチョが、
私の目の前に差し出される。
ウェイターが立ち去ると、慶介さんは
「さっきの電話は、大学時代の友達から」と言った。
「かけ直さなくていいの?」
「ああ。土曜に電話があるときは、飲み会の誘いだから」
彼の態度に不信な点はない。
表情もフォークを持つ手も、いつも通り。
私は「良かった、仕事じゃなくて」とほほ笑み、スズキを口に運んだ。
『良かった、あの女の人じゃなくて』というのが本当の気持ちだった。
不安や疑問が湧くたびに、彼は私が安心する言葉をくれる。
それが真実だという保証はないけれど、できる限り彼を信じたい。

優雅なランチの後、慶介さんはチェックインカウンターへ向かった。
「ここに泊まるの?」
「そう」と彼はいたずらっ子のように笑う。
とにかく彼は私を驚かせたいのだ。
だから、ドライブの行き先を言わないし、予定も教えてくれない。
そしていつも、ときめく何かを用意してくれている。
このホテルの部屋から見える景色も、サプライズのひとつだったらしい。
バルコニーの扉を開けると、視界の全てがブルーに埋め尽くされた。
潮風の中、海と空とをわける水平線の美しさに、私は瞬きを忘れた。

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