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26話 届かない声


私が向かい側の道路にたどりついたとき、
慶介さんと女性の姿は、もう見えなくなっていた。
路地を曲がったのだろうか、それともビルに入ったのだろうか。

メールではなく、携帯に電話をかけてみる。
「電波の届かないところにいます」というアナウンスが流れた。
いら立ちと不安がつのる。
「茜、どうしたの?」
追いついたリョーコが、私の顔を覗きこんだ。
「慶介さんが……女と歩いてた」
ひとこと言っただけで、体中の力が抜けていくのが分かった。

リョーコに支えられるように歩き、近くのバーに入った。
のどがカラカラに乾いている。
出された水を一気に飲み干しても、癒されない。
慶介さんと一緒にいた女性の後姿が、頭に浮かぶ。
細くて華奢で、長くて艶のある黒髪で、女らしい雰囲気の人。
彼女が放つ『女の匂い』が、私を不安にさせる。

もう一度、慶介さんに電話をかけた。
——やっぱり、つながらない。
いら立ちと不安がふくらんで、胸がはり裂けそうに苦しい。
恋がしたいと思っていたけど——……恋愛は楽しいだけじゃない。
苦しさも伴うものだったということを、今になって思い出した。

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