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guest30「とりあえずの恋」


「いらっしゃいませ」
私は声の主をチラリとも見もしないで、
一番奥の席に座った。

幕張での一般事務の仕事から、
目黒にある今の会社に転職をしてもう5年になる。
海外からのメールを翻訳したり、
海外向けの資料を翻訳したり、
ときには会議で通訳をしたりと、
学生時代からがんばった英語のスキルを活かせる
今の仕事に満足している。
地味だけど。

18時に仕事が終わると、
東京を横断するようにして新浦安に帰る。
1時間少々の通勤時間を、不憫がる人もいるけれど、
私は別になんとも思わない。
私からしてみれば、
わざわざ会社の近くに引っ越す人の気が知れない。
私は川があって、公園があって、ダイエーがある、
新浦安の町が気に入っている。
地味だけど。

都心で働いて、川の流れるのどかな家に帰る。
玄関で「ただいま」とつぶやいて、部屋のライトをつける。
地味だけど、わりと広い部屋が照らし出されて、
仕事モードの私が眠りにつく。
たったそれだけのことに、私は幸せを感じていた。

なのにどうしてだろう。
今日の私は、東京駅での長い乗り換えが
この上なく憂鬱に感じられた。
前を歩く人の、よくある背中を眺めているうちに、
外の空気が吸いたくなって、
部屋で過ごす「いつもの時間」から遠ざかりたくなった。

簡単なご飯を作って、TVとともに過ごす「いつもの時間」。
手に届くところに携帯を乗せて、ひとりで過ごす「いつもの時間」。

本当の私は知っている。
どうして私が、今ここにいるのか。
東京駅の外は騒がしかった。
そこから逃げるように、
私は人のいないこの「天国」という名前の喫茶店に逃げ込んだ。
それがなぜか、本当の私は知っている。

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