読んだり見たりといった行動を示す「目を通す」。日々仕事をするなかで「目を通しておきます」「目を通していただきたく」などと、何気なく使っているのではないでしょうか。
実は「目を通す」という言葉は、目上の人に使うには、あまりふさわしい表現ではありません。
今回は、誤解しやすい「目を通す」の意味と使い方をおさらいします。正しい敬語表現や類語・言い換え表現もご紹介するため、ぜひ役立ててください。
■「目を通す」の意味
「目を通す」とは、「一通りざっと見る」という意味です。書類の確認をあおぐシーンが頻発するビジネス上で使いがちな表現ですが、改めて意味を見てみましょう。
目(め)を通(とお)・す
ひととおり見る。通覧する。「朝刊にざっと―・す」
出典:『デジタル大辞泉』小学館
全体を一通り確認するという意味を持つことが分かりました。「ざっと見る」という程度のため、細かな部分まで確認するニュアンスは含まれません。^一言一句を見逃さずに読むのではなく、全体を把握するために斜め読みするシーンにマッチするといえるでしょう。^
とはいえ、元々「目を通す」という言葉には謙遜の意味合いが含まれています。実際には隅々まで確認していても、「目を通しておきました」と伝えた経験がある人も多いでしょう。
■「目を通す」の間違った使い方
書類・依頼の内容をおおまかに確認する時に使用する「目を通す」ですが、実際のところ間違った使い方をする方も少なくありません。
そこで次に、「目を通す」のNGな使い方を解説します。
◇(1)目上の人へ使う際は敬語表現にする
まず、覚えておかなければいけないのが、「目を通す」は目上の人には不適切な表現ということ。その理由の1つに、「目を通す」という言葉が敬語でないことが挙げられます。
もし^敬語にするならば、「~いただく」などの謙譲語を組み合わせることが必要^です。「目を通していただく」とすれば形的には敬語表現になります。
さらに、そもそも「目を通す」の意味は、「一通り見る」ということです。もし相手に依頼するならば「ざっくり見てもらえますか?」といった、かなりライトなニュアンスになります。
相手によってはビジネス上の書類を「軽く斜め読みしてください」というのは失礼だと捉えられる可能性があるため注意しましょう。
◇(2)きちんと確認してほしい時には不適切
ざっと見るという意味を持つ「目を通す」は、じっくりと確認してほしい時にはそぐわない表現です。万が一、^細部まで見てほしいシーンで「目を通しておいてください」と伝えてしまうと、相手は「ざっと読む程度で良いのか」と思ってしまうかもしれません。^
認識の違いを生まないためにも、内容をしっかり確認してほしい時には他の表現を選びましょう。そもそも目上の上司には適さない表現である「目を通す」ですが、たとえ相手が同僚や部下であっても、使用するシーンは見極めなければなりません。
■「目を通す」の正しい敬語表現
次に、「目を通す」の敬語表現を紹介しましょう。単体では敬語として成り立っていない「目を通す」ですが、少し言葉を加えると目上の人にも使用できる表現になります。
◇(1)「お目通しいただきたく存じます」
「目を通す」を、目上の人に使えるようにした表現が「お目通し」です。意味は変わらず、全体的に目を通すことを指します。さらに「~いただく」の謙譲語をセットにすれば、^相手を立てながら「見てほしい」ということを丁寧に伝えられる^でしょう。
◇(2)「お目通しいただきますようお願い申し上げます」
「お目通しいただく」に、「お願い申し上げます」を付け加えるとさらに丁寧な表現になります。2つの言葉のつなぎの部分には、「ますよう」を使うと自然です。
「よう」には希望の意を表す意味もあり、「お目通しいただきますよう」とすれば、^「目を通してもらいたい」と願っていると伝えられる^でしょう。
◇(3)「お目通しいただければ幸いです」
「目を通してほしい」ということを、やさしく伝えたいなら「お目通しいただければ幸いです」を使ってみてください。「幸いです」は、「ありがたい」や「うれしい」の謙譲表現です。
ただし、^なるべく早く見てほしい時や、絶対に見てほしい時には向きません。^「いただければ幸いです」は「見てもらえたらうれしい」といったニュアンスで、相手の行動を促す力は低いためです。軽く呼びかけるシーンに絞って使用しましょう。
■「目を通す」の類語・言い換え表現
最後に、「目を通す」の類語・言い換え表現をご紹介します。前述した通り、目上の人への使用は注意が必要で、細部まで確認してほしい時にも向きません。
そこで類語や言い換え表現を知っておくと、相手やシーンに合わせて使い分けられるでしょう。
◇(1)目上の人への依頼は「ご覧いただく」
相手を敬う表現にしたいなら、「ご覧いただく」をおすすめします。^「見てもらう」ということを丁寧に表した言葉で、上司な目上の人に依頼するシーンにぴったり^です。
実際に依頼する時は、「ご覧いただければ幸いです」や「ご覧いただきますようお願いいたします」などが好適で、言い回しは「目を通す」を敬語にした場合と変わりません。
◇(2)より丁寧に依頼したい時は「ご高覧」
「ご覧いただく」より、さらにかしこまった表現が「ご高覧」です。目上の人に「見てほしい」「読んでほしい」シーンに適しています。さらに^「ご高覧」は文字通り、高いところから見るという意味。目上の人に、広く目を通してほしい時にベストな表現^です。
「高覧」自体は名詞のため、相手の行動を指す場合は他の言葉と組合さなければなりません。
「賜る」や「いただく」をセットにし、また最大級の敬意を示す「ご高覧に供する」という言い回しも覚えておくと、大事な取引先とのやり取りにも役立つでしょう。
☆目上の人からの依頼された場合は「拝読する」
ここまで相手に見てもらいたい時の言い回しについて解説しましたが、もし^自分が相手から「見てほしい」と言われた場合は「拝読する」を使うと良い^でしょう。
そもそも「拝読」は「読む」の謙譲語で、筆者を敬って読むという意味があります。「拝読いたします」「拝読いたしました」とすれば、^目を通した旨を伝えると同時に、書類などを作成した相手への敬意も払える^のです。
■「目を通す」を目上の人に使う時はアレンジが必要
ざっと斜め読みするという意味を持つ「目を通す」。資料を読む時、または読んでほしい資料を渡す時に活躍する表現ですが、目上の人への使用は要注意です。
「目を通していただきたく」というと、「適当に見ておいてください」といっているようなもの。ビジネスシーンで、さらに目上の人ともなると適した表現ではありません。必要に応じてアレンジし、相手・シーンに適切な言い回しに直しましょう。
(にほんご倶楽部)
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