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2020年11月24日 18:00 更新

泥沼のケンカから生み出した、夫婦だけの黄金ルール 山下夫妻の場合 #共働き夫婦のセブンルール

世の共働き夫婦は、どう家事を分担して、どんな方針で育児をしているんだろう。うまくこなしている夫婦にインタビューして、その秘訣を探りたい。そんな想いから、今回の企画はスタート。それぞれの家庭のルールやこだわりを7つにまとめ、その夫婦の価値観を紐解いていきます。第2回目は、5歳の女の子のパパとママである山下夫妻のお話。

【左】山下留美さん(仮名/39歳/IT・事務) 【右】山下秀介さん(仮名/38歳/広告・編集)

夫婦のルールといっても、そう簡単にできるものじゃない。むしろ、苦しみ、ぶつかり合い、窒息寸前の泥沼のようなところから、ようやく生み出された光であるはずだ。

山下さん夫婦の7ルールも、そうして作られたものだ。

広告・編集の仕事に就く秀介さんが32歳、IT・事務職の留美さんが33歳のときに結婚。留美さんは翌年に出産し、現在、保育園に通う5歳の娘さんがいる。娘さんが3歳までは、留美さんは時短勤務していたが、今では夫婦ともにフルタイムの共働き世帯だ。

インタビューではお互いに言いたいことを言い合う、気さくで仲のよい夫婦という印象だった。しかし、そこに辿り着くまでには紆余曲折があったという。いやぁ、ですよね、育児と仕事の両立が、きれいごとだけで済むはずがない! そんな共感を抱きながら、2人がまさに血の滲むような努力の末に生み出した、夫婦の7ルールを聞いた。

7ルール-1 親同士の意見は違ってもいい

これはいきなり、沼が深そうなルールだ。聞くと、山下さん夫婦も以前は、「親同士の意見を合わせたほうが、子どもが混乱しなくていい」という世間一般的な考えを持っていたそう。ところが現実では、これをやろうとすると夫婦ケンカが絶えなかった。

「子どもの前でもケンカするから、娘が気を遣って、僕らの手を握らせようとしていました。そんな健気な姿を見て一応、仲直りはするんだけど、どうしてもわだかまりが残る。要するに、親の意見を合わせようとすると、どうしても夫婦どちらかの意見に無理やり合わせなくちゃいけないのが問題。それならもう、親の意見が違ってもいいじゃない、と思うようになりました」(秀介さん)

「怖い顔しながら納得したフリしてもしょうがないよね、って。子どもも5歳くらいになると、いろんな意見の人がいるということがわかってきます。娘も『これはお父さんのほうが正しいけど、これはお母さんの意見のほうがいいと思う』とか言うようになって、自分で考えるクセがついてきたような気がします」(留美さん)

「夫婦が同じ意見でなくてもいい。いろいろな考え方があることを、娘にも知ってほしい」と話す留美さん。

山下さん夫婦は、お互いに自分の意見をはっきり持っていて、ケンカをすれば根に持つタイプ。子どものことを考えれば、親の意見は合わせたほうがいいのか、それとも将来、多様化が進む社会に出たときのためにも、人にはそれぞれ違う考えがあるということを学ばせたほうがいいのか、その正解はわからない。

ひとつだけ言えるのは、山下さん夫婦にはこのルールが合っている、ということだ。

無理に意見を合わせないことで夫婦ゲンカが減り、娘さんにも考える力がついている。誰が何と言おうが、夫婦ともに「うちにはこれがいい」と思える内容であることが、夫婦のルールの第一条件。話を聞いていて、そう深く納得した。

7ルール-2 夫婦のコミュニケーションはバイオハザード

子どものこととなると、あまりにも大切な存在であるだけに、夫婦であっても、実の親であっても、どうしたってぶつかることはある。そんな夫婦の気持ちをほぐすコミュニケーションツールが、山下さん夫婦の場合、プレイステーションのゲーム、「バイオハザード」だ。

「普段は日常に追われて、夫婦の会話が少なくなりがち。話そうとするとケンカになっちゃったりしてね。そんなときはコレ。もともと夫が好きだったゲームですが、やってみたら私もハマってしまって」(留美さん)

「バイオハザードでは、協力しないとゾンビに殺される。だから、生き残るために夫婦で力を合わせるんです。『オレがアイテムを取りに行くから、その間にあれやっといて!』みたいな。一緒に作戦を練って、うまくいけば『やったね!』と手を合わせたくなるし、ダメだったらどっちの責任だったのか、“詰め会”もやります。育児と違ってゲームなので、失敗してもケンカになったりはしませんけどね。『シュート外しても、ドンマイ』みたいな、部活ノリです」(秀介さん)

2人プレイができるタイムアタック制で、クリアしたらハイタッチをするくらい盛り上がるそう。

なるほど。これは確かに、ギスギスしがちな育児中の夫婦にオススメかも。ゾンビものだけに子どもの前ではできないけれど、寝かしつけたあとならいつでもはじめられる、夫婦の楽しみになりそうだ。子どもが寝たからといって、「さあ、夫婦で話しましょう」なんてこっぱずかしくて言えない私も、「一緒にゾンビでも倒そうか」なら、言えるかもしれない。

7ルール-3 ひとり時間を死守する

似た者同士の山下さん夫婦には、もうひとつ、共通点がある。それは、どちらもひとりの時間が絶対に必要なタイプであること。

それを再認識したのは、娘さんがまだ乳児で、育休中の留美さんがひとりで育児を担っていたころ。

「いくら最愛の娘でも、ひとりの時間がまったく持てないことで、頭がおかしくなりそうになって。夫は今でこそ育児も家事も積極的にやってくれるけど、当時は育児にかかりっきりになることが、どんなに大変なことか想像がつかなかったみたいで……。あのころのことは、お酒を飲まずには語れません。(編集部とライターに向けて)行きます? 一杯(笑)」(留美さん)

「それ、一生言われるよね……(苦笑)」(秀介さん)

「当たり前! 一生言うよ!」(留美さん)

そう、乳児時代に助けてくれなかったことは、当然のごとく、パートナーから恨まれることが多い。ただ、山下さん夫婦の場合、ここから学んだことがある。

「今は、私も休日にプールに泳ぎに行ったり、ひとりで映画を見に行ったりして、ひとり時間を楽しんでいます。夫婦の予定はオンラインで管理しているから、もうそこに『この日はプール』とか、予定を入れちゃう。お互いに、ひとりの時間を持つことで心身の安定が図れることがわかっているから、それでケンカになることはないですね」(留美さん)

「僕も、朝早く起きてひとりで登山に出かけたりしています。仕事でも、相手のスケジュールを共有していれば、空いているところに何を入れられても文句は言えないでしょう。そんなビジネスルールの延長のような感覚です」(秀介さん)

秀介さんの登山アイテム。「もくもくと山に登ると、頭がいったん空っぽになります。それが好きで山登りに行く感じです」(秀介さん)。

山下さん夫妻のように、夫婦平等にひとりの時間が持てれば、どちらかだけに過度な負担がかかることもないはずだ。しかしそれを実現するには、何よりお互いを理解し、尊重しあうことが大前提。大変だった過去も、今では冗談を交えながら笑って思い返せる。そんな話に、2人の絆の深さを感じた。

7ルール-4 育児・家事スキルは同じにする

山下さん夫婦には、夫婦が平等にひとり時間を持つための土台がある。夫婦の育児・家事スキルに差がないことだ。

「夫はもともと家事をするほうでしたが、コロナ禍でテレワーク中心になったことで、出社する私に代わって、ほとんどの家事をやってくれるようになりました。今まではゴミ出しだけ、とか点でやっていたのが、点と点がつながって、すべて任せられるようになったんです。これは、コロナ禍で唯一、よかったことですね」(留美さん)

週末には、2人で一緒にキッチンに立つこともあるそう。

「洗濯物の干し方とか、干してもたたまないとか、今まではブツブツ言われていましたが、自分ごとになったことで気づくことが多かったですね」(秀介さん)

家事・育児は「できるほうがやればいい」という秀介さんに、「何それ、むしろ怖いんだけど。私が中心でやるときには、ちゃんとルールを決めたいよ」と留美さん。いずれにせよ、スキルが同じであれば、状況に合わせた調整ができるのだから、お互いにとって好都合だ。世の夫たち(うちの夫含め)にも、このルールの重要性を腹の底から叫びたい。

7ルール-5 [夫] ひとりっ子の娘にとって、親と友だちの役割を担う

秀介さんは娘さんと接するとき、「いつも友だち目線で、何かで勝負するときも手を抜かずにガチで行きます」と言う。

「ひとりっ子だから、娘の親でありながら、一緒に成長する友だちであり、ライバルでありたいと思うんです」(秀介さん)

縄跳び、スケボー、バスケのようなドリブル練習など、運動もよく父子で楽しむ。正月に北海道出身の秀介さんの実家に帰ったときには、3歳から近所でスキーをはじめ、5歳でゲレンデデビューも果たした。

「ゲレンデでは、子ども用のコーナーじゃなくて、初心者コースですね。最初は泣いていましたが、泣き止んだころにはぐっと上達していました。普段の土日にも娘と2人で出かけて、がっつり遊ぶことがよくあります。僕も楽しいので、苦になることはないですね」(秀介さん)

クールな印象の秀介さんだが、実は近所の子どもたちにも大人気だという。

その間、留美さんは「横になって休んでいます♡」とのこと。留美さんのほうは、友だち目線ということはなく、子どもを守る親として娘さんに接しているそう。

子どもへの接し方でも、夫婦がバランスよく役割分担できているようだ。

7ルール-6 お金よりも時間を大切にする

共働きで育児をするのは、どうしたって重労働。時間なんてあるわけがない。そんななかでも、山下さん夫婦がそれぞれの時間を持ち、心身の調和を保っていられている背景にあるのが、このルールだ。

「食洗機はビルトインのものを外して、使いやすいものに替えました。たくさん入るし、きれいになるので満足しています。それと、我が家に合っているのが家事代行サービス。1シーズンに一度、掃除を頼んでいるのですが、プロが働いていると私たちもやる気になるので、掃除してもらっている間に衣替えや片付けをしています。これがいいサイクルで回っているな、と思いますね」(留美さん)

山下家の食洗機。「決して安い買い物ではなかったけど、ストレスやイライラを解消できるなら、と思って購入を決めました。毎日、大活躍しています」(留美さん)。このほかに、床拭きロボットのブラーバも使っているそうで、便利家電を日常的に取り入れていた。

お金を出して掃除をしてもらうことで、夫婦それぞれや家族での時間が持てる。「あれを片付けなきゃとか、タスクが残った状態だとリラックスできないんですよね」と留美さんが言うように、家事の負担は、心の負担に直結する。

家族にとって一番大切なものは何なのか。優先順位をつければ、人に頼るべきところが見えてくるのかもしれない。

7ルール-7 娘が興味を持った本はすべてそろえる

家事をお金で解決することによって空いた時間に楽しむのは、山下家共通の趣味、読書だ。

「本屋さんの空気感や新しい本見つけたときの高揚感が好きで、子どもを連れてよく行きます。子どもが興味を持った本は、何でもそろえてあげたいというのが私たちのルールです」(留美さん)

「図書館にもよく行きますね。週1で行って、親子の貸出カードでめいっぱい借りて。そういう生活をしてきたからか、保育園でもよく本を読んでいるようです。娘には、それがひとりでリフレッシュするのに重要な時間なんだな、と思っています」(秀介さん)

夫婦が子どものころに好きだった本を勧めることも多い。

「『モチモチの木』とか『モモちゃんとアカネちゃん』シリーズとか。私たちが本ですごく世界が広がった経験があるから、娘にも同じ体験をさせてあげたい。娘がポケモンやウルトラマンにハマった時期もあって、その図鑑を買ったこともあります。ほかにも、世界遺産や危険生物の図鑑など、保育園にはなさそうな図鑑をそろえて家に置いています」(留美さん)

今まで購入した、娘さんの絵本の一部。松谷みよ子さんの『おはなし集』『モモちゃんとアカネちゃんシリーズ』や、字のないデッサン風の絵本『アンジュール』(作・絵/ガブリエル・バンサン)など、親子で読み継がれる名作が並ぶ。

彼らの7ルールを一言で言うと……?

山下さん夫婦の7ルールを最後まで聞いて感じたのは、とても合理的だということ。そして、正しいかどうかではなく、「自分たちらしさ」がその論理の基準となっていることだ。

最初から、夫婦にぴったりのルールがあったわけではない。留美さんが「一生、忘れられない」というワンオペ乳児育児の時期を経て、「心身のバランスを取るためにひとり時間が必要」「無理に意見を合わせてもケンカになるだけ」「ケンカするとお互いに根に持ってしまう」など、お互いの性格を根っこの部分まで理解し、納得したことで、今のルールができた。

仕事と家事・育児の両立は誰にとっても大変で、必死なあまり、夫婦間ではその人のいいところも悪いところも剥き出しになる。そのとき、どちらかが無理をするのではなく、お互いが歩み寄って、夫婦だけのルールを決められたら、きっと、家族の絆は強くなる。そしてそれは、子どもにもビシビシ伝わっている。

自分を顧みると、私たち夫婦は山下さん夫婦とは性格や境遇が違う。だが、妥協せず、お互いにとって心地いいルールを求めていく、その姿勢はぜひ見習いたいと感じた。

(取材・文:中島理恵、撮影:梅沢香織、イラスト:二階堂 ちはる)

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