【医師監修】妊婦の花粉症、薬は使っても大丈夫? 症状を緩和する3つのポイント
毎年、時期になると、どこからともなく飛んでくる花粉……。目のかゆみや鼻水、のどの痛み、肌荒れなど、さまざまな症状を引き起こすため、薬が手放せないという人もいるはず。妊娠中でも薬で花粉症の症状を抑えてよいのでしょうか。
くしゃみ、鼻水、目のかゆみ……つらい花粉症の症状
ひとくちに花粉症といっても、その原因となる花粉や症状は実に多様です。花粉症の基本を確認しておきましょう。
花粉症はなぜ起こる?
花粉症はその名の通り、花粉が原因となって起こる病気です。身体の免疫が花粉に対して過剰に反応し、外に追い出そうと、くしゃみ、鼻水、涙などのアレルギー症状を引き起こします。花粉の飛散時期にこのような症状があり、なおかつ血液検査などで花粉に対する抗体が体内に存在していることがわかると、花粉症と診断されます。
現時点でまだ花粉症を発症していない人も、今後、大量の花粉との接触があると、体内で抗体が作られて花粉症を発症する可能性が高まります。したがって花粉症になることを防ぐには、花粉になるべく接しないことが大切といわれています。
スギ、ヒノキ、イネ、ブタクサ……時期によって異なる、さまざまな花粉症
花粉症の原因となる花粉の種類はスギ、ヒノキ、シラカバ、イネ、ブタクサ、ヨモギなどさまざまで、それぞれ飛散する時期も異なります。例えば、スギは2~4月、ヒノキは4~5月、6~8月にイネ科、8~10月にはブタクサやヨモギの花粉が飛散します[*1]。そのため、人によってはほぼ1年中、花粉症に悩まされることもあるでしょう。
ただし、このように原因となる花粉は多岐にわたるものの、花粉症の約70%はスギ花粉によるものと推察されています[*2]。スギ林は日本全国の森林の18%、国土の12%を占めるほど広大で、スギの人工林が多い関東・東海地方を中心に花粉が大量飛散し、スギ花粉症患者を増加させています[*2]。
スギは日本特有の木で、スギによる花粉症が問題となっているのは世界でも、ほぼ日本だけといわれています。現在、スギ花粉の飛散量を減少させるために、花粉の多い木の抜き伐りや花粉の少ない品種に改良する取り組みが行われています。
妊娠中に花粉症の薬は使える?
花粉症の症状には我慢するのがつらいものもあります。そうした場合は妊娠中でも薬を使い、治療をしたり症状を緩和させたりしてよいのでしょうか。
花粉症の一般的な治療法
花粉症の治療法にはいくつかあり、どのように病気にアプローチするかによって、対症療法と根治療法という2つに大きく分けられます。まずは妊娠していないときに行われるそれぞれの治療法の特徴を紹介します。
対症療法
薬などの力を使って、花粉症の症状によるQOL(クオリティオブライフ=生活の質)の低下を抑えようというのが、対症療法です。点眼薬、点鼻薬、内服薬のほか、レーザーなどによる手術が対症療法に含まれます。
花粉症のさまざまな症状を抑える薬をうまく用いることで、花粉が多い年でも5~6割の人は症状をほとんど感じずに過ごせるといわれています[*2]。
また、花粉が飛び始めた直後から治療を開始する「初期療法」が有効であることは医学的にも証明されています。
根治療法
花粉症を根本から治すことを目指した治療法です。具体的には、原因となる花粉が少しでも体に入らないように工夫する方法や、免疫の仕組みそのものに対してアプローチする薬を用いる「免疫療法(減感作療法)」があります。
免疫療法は、花粉症を引き起こす抗原(アレルゲン)を含む治療薬を、最初は薄く、だんだん濃度を上げながら定期的に投与・服用し、花粉に対する免疫を身体に獲得させていく方法です。
抗原の投与方法により、注射で行う「皮下免疫療法」や、治療薬を舌の下に置いてから服用する「舌下免疫療法」があります。2014年には舌下免疫療法も保険適用になりました(現在、スギ花粉、ダニで保険適用)。
なお、免疫療法に関しては、いずれも妊娠中には受けられません。また、受ける場合、数年にわたり治療を継続することが必要です。できる医療施設も限られているので、希望する場合は、事前に電話などで問い合わせてから受診するのがよいでしょう。
妊娠中に花粉症の薬を使ってもいい?
さて、気になる「妊娠中に花粉症の薬を使ってもいい?」という疑問についてですが、結論から言うと、妊娠中に使用しても安全とされている花粉症の薬はあります。ただし「使用する時期と薬の種類」には限りがあります。自己判断で薬を飲むのはやめましょう。
まず、鼻アレルギーの治療では、点鼻薬と内服薬がありますが、薬の種類によっては、どちらも妊娠中には使用しない、あるいは使ってはいけないもの(禁忌)があります。産科の担当医に相談して、使用できるものを処方してもらいましょう。
基本的には、点鼻薬・点眼薬などの局所に使用する薬から処方されることが多いですが、症状の重症度によって内服薬も追加で使用します。点鼻薬・点眼薬の方が、母体血液中に薬効成分が入りにくいため、最初に使われることが多いのですが、だからといって内服薬全てが赤ちゃんに影響を及ぼすわけではないので、処方された薬は安心して使いましょう。
花粉症の症状がつらい場合は我慢するのではなく、健診の際にかかりつけの産科医に相談する、または妊娠中であることを伝えて耳鼻科を受診するなどして、治療を受けましょう。
薬を使わず花粉症の症状を和らげる3つのポイント
花粉症は、花粉との接触機会を減らすことで、薬を使わずとも症状を軽減させることができます。そのための3つのポイントを紹介します。
花粉との接触をなるべく避ける
花粉との接触を避けるのは、花粉症予防や症状緩和の基本です。
飛散の多い時の外出を控える。外出時にマスク、メガネを使う。飛散量の多い時は窓や戸を閉め、ふとんや洗濯物の外干しは避ける。掃除の際、窓際を特に念入りに掃除するなどして、花粉にできるだけ触れないよう工夫しましょう。
室内に花粉を持ち込まない
外から帰ってきた時は、衣服や髪に花粉が付着しています。それらをよく払ってから室内に入りましょう。特に表面がけば立ったウールやニット素材の衣服は花粉が付着しやすいので、花粉の飛散量が多い時はできれば避けましょう。
「そう言われても、どうしても着たい!」という場合は静電気防止のスプレーを使い、できるだけ花粉が付着しないようにしてから着るのがおすすめです。
目や鼻を洗うのも効果的
目についたり、鼻の中に入ったりした花粉やほこりなどは、目や鼻を洗うことで取り除けます。ただし、目の細胞や鼻の粘膜はとても繊細。塩素を含む水道水などで洗ってしまうと傷つけてしまうこともあります。
目を洗う時は市販の人工涙液などを、鼻を洗うときは細胞液や体液に近い濃度の生理食塩水を使い、丁寧に行いましょう。また洗いすぎないようにしましょう。
まとめ
つらい花粉症の症状は、妊娠中であってもいろいろな工夫で抑えることが可能です。なるべく花粉との接触を避けつつ、上手に医療に頼って、花粉の季節を乗り切りましょう。
(文:山本尚恵/監修:浅野仁覚先生)
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※この記事は、マイナビ子育て編集部の企画編集により制作し、医師の監修を経た上で掲載しました
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